鷲の巣

NFL フィラデルフィア・イーグルス(Philadelphia EAGLES)の応援ブログ

新HCの紹介と考察

インタビューがえらく上手くいったという情報が入っていたMcDanielsに決めるならちょっと引っ張りすぎの感もあり、長期戦の様相を呈していたHC選びが急転直下解決。ちなみに公式発表はまだされておりません。

 

【新HCはNick Sirianni】
現地19日(火)に突如飛び込んで来た「IND OCのNick Sirianniとインタビュー」とのシェフター情報。それまで候補者にリストアップされていた気配が全くなかった人材だったため単純に驚いた。そのあたりでは他にJohn Fassel(DAL STC)、Dennis Allen(NO DC)などのインタビュー情報も入っていたため、もはや何でもありの様相を呈していた。現地では「あそこのスーパーマーケットのマネージャーもインタビューを受けたらしい」「お前の高校のSTCも候補に上がってる」などいじられ放題。個人的には、経歴を傷つけるリスクが高すぎる仕事なので誰も引き受けてくれないのではないかと心配していた。
その後、Sirianniとのインタビューは2日に亘って行われたという話があり、ほぼほぼそうなのかなと。
最終的にはJohn McDanielsとSirianniの二択だったと理解している。そのうち、RosemanがMcDanielsを推していたが、最終的にはオーナーのLurieがSirianniを選んだとのこと。
個人的には、ボストン大学で心理学を修めた過去を持つLurieのHCを選ぶ目は信じていたところ。この人選については文句なし。というか人を見る目がないGMでお馴染みのRosemanが推したやつじゃなかった時点でこの選考は成功ではないでしょうか。John Dorseyが吹き込んだという噂はありますが。
そしてこの動きはWentzに最後のチャンスを与えようとするものだと見て間違いないでしょう。HC選びはそれを主軸に行われていたようですし。
では、Sirianniさんについて。私も最初の反応は誠に恐縮なことに“…誰?”であったので調べてみました。

 

【経歴】
まず、読み方ですが、カタカナでいうと「シリアーニ」でたぶん間違いないでしょう。「-」のところが小さめの「ン」である可能性も若干ありますが、まあ誤差です。
イタリア系アメリカ人の39歳。父親がフットボールコーチで兄二人もフットボールコーチ経験者。というか、父親はニューヨーク州北西部では知る人ぞ知るハイスクールフットボールコーチ。そのコーチ歴は45年に及び、バッファロー近郊の“Chautauqua”郡のスポーツの殿堂入りも果たしている人だとか。
そしてその影響を受けて本人もフットボールコーチの道に。本人としては「望んで」コーチ稼業を始めた様子でもないが、やはり環境は人間を作る。フットボールコーチ以外の道への分岐点がことごとく上手くいかず、気づけばコーチ業界の頂点にまで来てしまった男。
超厳格だった父親のもとで、ちょっとした反抗期なんかもありながら、末っ子はすくすくと成長。そして二人の兄を追いかけてオハイオ州にあるNCAA DivisionⅢのパワーハウス、Mount Union Collegeに進学。
選手としてはWRをプレー。19.6ydsのアベレージレシーブヤードは学校史上第5位だとか。
引退後にMUCでDBコーチとしてコーチ稼業をスタート。そこでは一度大学時代の友人に誘われてフロリダで営業職の面談を受けたそうだが、その友人が、面談直前にSirianniと一緒に滞在していたホテルの部屋の鍵を持ったままビーチにジョギングに行ったため、締め出されたSirianniはその友人を捕まえるべくスーツを着たままビーチを爆走。直後に荒い息も収まらぬまま受けた面談の結果は、案の定不合格。
あるいはインドアフットボールでも一瞬プレーしたそうだが、DivisionⅢ出身者には壁が厚かったようでそちらも断念。

その後ペンシルベニア州インディアナ大学(Indiana University of Pennsylvania:インディアナ大およびインディアナ大機構とは別物)で3年間WRCを務めたのち、2009年にKCのHCの友人の誘いでKCの“low-level”クオリティコントロールコーチとしてNFLコーチのキャリアを開始。ちなみに当時のKCのHCはTodd Haley。その後順調に昇進し、2012年にはWRCに。ちなみに2012のOCはあのBrian Daboll。まだダメだった頃。
その後、2013にSD(現LAC)に転身、そこでQBCだった現IND HCのFrank Reichと出会う。
2013はクオリティコントロールコーチを務め、翌2014から2年間はQBCとしてOCに昇進したReichの直属の部下に。Reichが去った2016・2017はWRCを務め、2018にINDのHCとなったReichに誘われ、INDのOCに。以降3年間、Luck・Jacoby Brissett・Riversと異なるQBを指導。
昨オフにはCLEからインタビューの打診を受けていたそうだがプレーオフに集中するために断り、そして2021、めでたくPHIの第24代HCに就任(予定)。

 

【INDでのお仕事と評判】
プレーコール経験はなし。これはReichのお仕事。
ではSirianniのお仕事はというと、主にGame Planの作成。その役割は「決して小さなものではない」とのこと。Reichとの間ではGame Plan等について信頼に基づく率直な意見交換があった様子。
Sirianniが評価されていたのは、Game Plan作成能力ももちろんあるんでしょうが、作成したGame Planを選手に教え込むというか落とし込む能力の高さ。この点が、Reichからの信頼が厚かった所以。その一例として、オフシーズン中に選手のスキームの理解を確認するため、筆記試験を課したこともあるとか。やってることが教師。
ちなみに、彼をよく知る人は、DivisionⅢというレベルが低いところでコーチをした経験が、「Sirianniをいい教師にした」と。つまり、教えなくてもなんでもできちゃうようなエリートではない人間を一人前の選手に育てるためには、情熱を持って、選手のモチベーションを上げながら、丁寧に、粘り強く教えることが必要だったと。

そして一番評価されているのは、その情熱。
これはINDが出していた映像をみたけど、まあ確かにアツそうな御仁。選手とのコミュニケーションは問題ないとみて間違いないでしょうし、事実選手からの信頼は厚いとのこと。

 

【懸念点とか】
さて、悲観的でお馴染みのPHIメディアの中には、この時点でご懸念を表明されている例も。
具体的には、
・プレーコール出したことないやないか
・どのカテゴリーでもHCやったことないやないか
・QBの指導経験が少なく、実績も出てないからWentzは直せない
など。
上の2点は論ずるに値しない。
1999にPHIがHCとして迎えた男は当時40歳のQBC上がりでプレーコール経験もHC経験もなかったが、その後14年に亘って君臨し、見事常勝軍団に育て上げた。名をAndy Reidという。
さらにもう一例挙げるなら、Sirianniの前任のDoug Pedersonもプレーコール経験はほぼなかったが、Super Bowlに勝った。人間誰しも初めての時というのはある。
挙げた二人との共通点、Lurieが選んだ、という点を信用してみたいと思う。
そして、一番重要な3点目について。これはもうWentz次第ということでよいのでは。
なぜなら2021はWentzにとって、実質契約最終年。21オフからはデッドキャップのほうがキャップセーブより小さくなるのでカットもできる。そもそもCBA下においてはコーチが指導できる期間は限られるので貴様自身で立ち直ってください。どれだけSirianniが有能でもそのコーチングを受け入れないということであれば修正は不能。無理ならHurtsで2022からはやっていきましょう。

しかしこの論がさすがに無体すぎるのであれば、もう少し。
2020シーズン、INDは“Time To Throw”いわゆる投げるまでの時間がNFLで2番目に短いOffenseを展開。対するPHIは30位。この統計に関してはWentzもHurtsもほぼ変わりなかったので、ほぼWentzの記録と思っていいのでしょう。(さらっと確認したところ、PHIのこの遅投げ傾向はWentzトップフォームかつReichがいた2017も同様)
PedersonはDeepへの意欲がひときわ高かったため、この統計が下位に沈んでいたのは妥当。一方で、SirianniのOffenseはWentzにとって従来のスタイルと真逆。LoSから5yds以内のWRへのRACを期待するパスとRBへのパスを多用する、比較的“horizontally”なOffenseを好むそう。
この急激な方向転換がWentzにどう作用するのか。好意的には、球離れをよくすることでReagorとかの才能が活きてWentzにかけられた負担軽減につながるという見方もできる。しかしこればっかりはどうなるかわからない。Andrew Luck、Phillip Riversといったタイプは異なりながらいずれもリーグトップクラスに君臨した男たちを間近で見てきて蓄えたであろう引き出しに期待しましょう。

ちなみに、2016ドラフトにおけるWentzの評価をもう一度確認してきた。もしかしたらカレッジ時代のスタイルにヒントがあるのではないかと思って。
結論としては、Pedersonのスタイルに非常に似通ったスタイルでやっていたらしい。評価ポイントは「Deepへの正確性とプレーアクション等からの積極的なポケットワークというか走りながらの局面打開能力」。懸念点は「ケガ歴と、ショートパス・プレーリードの正確性」。絶望。何も変わっていない。ちなみに紐解いてみた記事では「いずれの欠点も修正可能」という文言で結論とされていた。重ねて絶望。
高校、大学、プロとすべてのカテゴリーでケガを積み重ねてきた28歳に、果たして新しいスタイルに生まれ変わる余力はあるのか。蓋を開けてみるまでわからない。

 

【今後の展望】
<組閣>
ちんたらHCを選んでいる間に有能っぽい人たちは結構さらわれちゃった感あり。
上がっているOC候補は、現LACのOCであるShane Steichenと、IowaステートのOCであるTom Manning、現INDの“pass-game specialist” Kevin Patullo。そしてJim Caldwell。このおじいちゃん人格者にならWentzの修正も可能なのかもしれない。思わず期待してしまう。正直に申し上げて前のほうは存じ上げない人ばかりなので、結果が出てから勉強したいと思います。
しかしお願いなのでOLCのJeff Stoutlandは残留させてくださいませ。噂されていたBAMAのOLCの職もDoug Marroneで埋まったようなので。
そして同じく不在のDC。こちらで名前が挙がっているのは現IND DBCのJonathan Gannonのほか、HOUで臨時HCだったRomeo CrennelとかWade Phillipsみたいなおじいちゃん連中ばっかりを追いかけているという噂もある。
まあこちらもおいおい決まってから勉強していきたいと思います。

<ドラフト>
2TEを愛用(比率はPedersonより低いけど)していたSirianniが就任したため、ドラフトでは6位でKyle Pittsなんていう噂も出てきた。ありかもしれない。だけど個人的にはその前にChaseもSmithも消えていることが条件になるのでCINの乱心が必須。
Kittleが年平均15MだったTEの相場は、試合への影響力に比して低すぎるという評価を個人的にはしているため、脳震盪リスクさえなんとかなりそうなのであればいってもいいかもしれない。
喉から手が出るほどCBも欲しいけど、この順位でいくのは怖すぎるしな…とか考えながら、こっちの答えはまだまだでなそうなので、まずはコーチの組閣を落ち着いて待ちたいと思います。

<Duce Staleyというナイスガイ>
Sirianniに不満はないけど、Duceの処遇は心配。またしても昇進が見送られたことをどう思っているのか。なまじ内外の選手からのサポートも手厚かったがためにSirianni的にもやりにくかろう。誰も悪くないとはいえ、そろそろ去り時かな。寂しいけど。

 

 

オーナーがLurieになって以降、今回でHC選びは5回目だったわけだが、他チームとの面談を受けていない独自候補を選ぶのはReid・Pedersonに次いで3回目。前述2人が成功だったと思うと、やはりLurieの人を見る目は信用したくなる。チップのことは忘れた。
何より今回Sirianniのことを調べて、すごく好きになった。McDanielsが来たらどう応援しようか…と悩んでいたころと比べるととてもすがすがしい。
Sirianniさんにおかれましては、この難問犇めくフランチャイズのHCを引き受けていただいて本当にありがとうございます。応援してます。頑張ってくださいませ。