鷲の巣

NFL フィラデルフィア・イーグルス(Philadelphia EAGLES)の応援ブログ

GMへの手紙

何かしらの決断をする上で、哲学があるということは良いことだと思います。
無限にある選択肢の中から、自らの哲学に則った選択肢を抽出して検討し、決断することは、“なんとなく”何かを決めるよりも一貫性があり、振り返って教訓にできるという意味でも合理的に思えます。

しかし、その哲学を、明らかに良くない結果が積み重なっても修正しないとなると、これは問題。ましてやそれが絶対的な権力を有する人間の所業なのであれば、害悪でしかない。
というわけで、論語にいう「誤って改めざる」こととされている“過ち”を繰り返すGMについて。
辞めてほしい100の理由を認めてみました。だけど長くなるし書きながらとんでもない徒労感に襲われたので理由は3個に絞っております。人格攻撃はできる限りしません。彼の業績について思うところを述べます。

 

事実

GM:2010~2014・2016~現在

大事な注釈)2010~2012は実質的に当時HC兼フットボールオペレーションの副社長だったAndy Reidが決定権者

 

1年間だけブランクになっている2015は、Chipが権力闘争に勝利して全権を奪ったもの。

 

この時のChipの扱いと、それに付随するRosemanの扱いについては、LurieオーナーがChip解雇時の記者会見で「非常に後悔している」と述べたこともありその後のチーム運営に大きな影を落としている。

 

GMとしての勝率
<Reid時代(2010~12)>22勝26敗45.8%(地区優勝1回)
<Chip時代(2013~14)>20勝12敗62.5%(地区優勝1回)
<Pederson時代(2016~20)>42勝37敗1分53.1%(地区優勝2回・WC1回+SB制覇)
<合計>10年間 84勝75敗1分52.8%(地区優勝4回・WC1回+SB制覇)

 

先ごろのSB前の期間に話題になった「Andy Reidの長いHC期間において、組んだGMの中でRosemanとの時代の勝率が一番悪かった」というのが上の事実に基づくもの。

事実なのでこれ以上は言わないが、一つRosemanを擁護するなら、上に述べたようにこの期間のフットボールオペレーションの統括者はReid自身。

ただ、その直下の人間として成績に一部責任を問われることは免れ得ない。

 

しかし10年間もの長期政権を築きながら、勝率は5割そこらである。
これだけでも有能とは言い難い。
とはいえ、それぞれの期間において何らかの言い訳(Reid時代は決定権者でない、Chip時代はChipだから、Pederson時代はSB制覇、など)が成り立つのがこの男の強運。

 

 

お仕事

1.Draft

各チーム均一のサラリーキャップで戦力構成が限定されるNFLにおいて、若返りの貴重な選択肢であるドラフトの重要性を強調してしすぎることはない。

もちろん即戦力たるFAとのバランスは必要だが、長期的に戦力を維持するためには安く戦力を確保できるドラフトで的確な指名を行うことは絶対条件。

参照したのはこの記事。“Football Outsiders”にて2010~19のドラフトの評価を行っているもの。

こちらの考え方としては、ドラフトには「資本(懸けたピックの価値の合計)」と「リターン(指名した選手のバリュー)」があって、その「バランス」が所謂「ドラフトの上手さ」になるのではないかというもの。

「資本」と「リターン」は、各年のドラフトにおいて各チームがそれぞれどれぐらいを占めたかの割合で算出しているので平均は100%÷32チームで3.125%。
そして総合効率といってもいい「バランス」は「リターン」÷「資本」で算出するので基準は100%。

それによると、Rosemanが最終決定権者になった2016~19の4年平均で、
資本:29位
リターン:30位
(両方とも低レベルなので)総合効率:22位
という結果。酷い。


もちろん、例えば選手のバリューなんかそう簡単に数値化できるものではない上にコーチ陣の指導力も結果して反映されているのでこの指標も完全だとは言いきれないが、「諸々考慮したチーム作り」という観点からは十分に参考指標になり得る。

HCであればSB優勝⇒ワイルドカード⇒地区優勝という実績でも、翌年にたった一度リーグの下から6位の成績をとっただけでクビにされる世界であることを忘れてはならない。(皮肉)

ちなみに、良い方の外れ値は、3巡でWilson、2巡でWagnerを当てた2012のSEAとか、4巡Bakhtiari、Tretter、2巡Lacy、5巡Micah Hydeを当てた2013のGBとか。

後者はピックしたチームへの恩恵という意味では少し違うかもしれないが、これも一面的な指標である証。

 

そのうえで、2016以降の指名選手を掲載すると以下の通り。

 

2016

2017

2018

2019

1巡

Carson Wentz*

Derek Barnett

Andre Dillard

2巡

Sidney Jones

Dallas Goedert

JJAW/
Miles Sanders*

3巡

Isaac Seumalo

Rasul Douglas

4巡

Donnel Pumphrey/Mack Hollins

Josh Sweat/
Avonte Maddox

Shareef Miller

5巡

Halapoulivaati Vaitai/
Wendell Smallwood

Nathan Gerry/Shelton Gibson

Clayton Thorson

6巡

Blake Countess

Elijah Qualls

Matt Pryor

7巡

Joe Walker/Alex McCalister/Jalen Mills

Jordan Mailata

*がプロボウラーで、薄い文字にしているのがもうロスターにはいない選手。

 

評価が終わっていない2020を除き、4年間で26名を指名、現時点でチームに在籍しているのが、13名。

プロボウラーは最近補欠で選ばれたSandersと2017のWentzの2名。

白眉は2017。2019も酷いけど。
個人的には5年目オプション行使済みのBarnettもカットでいいと思っております。10M浮くし。

擁護するなら、「2018みたいに当てる年もあるよ小粒だけど」となるか。

ちなみに前述の指標によると、この指標自体が1年前のものであり古いことは否めないが、その時点での2018のリターンはブービー賞の31位。ブービーメーカーはKC。

確かにこの年のKCの指名はDerrick Nnadiしか知らない。

 

彼がこうまでにドラフト下手であることには理由があるらしい。
内部情報によると「とにかくスカウトの言うことを無視しはる」とのこと。
この辺りは推測というか憶測も入っているだろうものであまり断定はできないが、まあそういう告発をもとにした記事はよく見た。

 

物議を醸した2020における2巡でのスカウトの反対を押し切ってのHurtsの指名もそう。

実は2012のドラフトの時に3巡で本気で狙っていたのがRussel Wilsonであり、それが75位で攫われたから仕方なく指名したのが88位のNick Foles。
今となってはFolesにも恩義があるのでなんとも言えないが、それがあったので「欲しいと思ったQBにはいかないといけない」という『哲学』を持ったのだとか。ちなみにこれは本人が仰っているので事実です。

 

いやまあね。
そらWilsonの結果みたらそうでしょうけど、下り坂を転がりだしていた32歳のVickと将来が嘱望されていた27歳のWentzとでは状況が全然違うでしょうに。

 

 

2.FAとロスター構成

これはドラフトと表裏一体になるのだけれど、ドラフトで外した穴に、とにかく高いおじさんをよう獲ってくる。

彼を称して「サラリーキャップの扱いがうまい」というものがあるが、これは「サラリーキャップは右肩上がりになっていくものだ」という『哲学』というか想定のもと立てられた戦略。

彼が良くやるのが「契約再構築」。
これは何かというと、ベースサラリーをサインボーナスに変換する、というもの。

 

これは、対象の選手にはサインボーナスとして一括でキャッシュが入る一方、チームはその分のベースサラリーを将来にわたって(最大5年)均等配分することが可能になる、というもの。

これをよくやったのがErtz。
TEの振り返りでも述べたが、彼はもともと2016年1月に、2017~21までの5年42.5Mの契約延長を行ったが、その後2017(3.225M)・2018(7.21M)・2019(7.195M)と毎年のように契約再構築を実施。その結果として、2019の契約再構築によって、現行契約終了が2021にもかかわらず、ダミーイヤーとして2022・2023にそれぞれ1.8M弱のサラリーを食う結果に。

契約再構築自体は、浮いたキャップを翌年に持ち越せるルールがある以上、悪いことではないし使い方次第では非常に有効な手段だと思うが、ここまでくるとやりすぎ。

こうなった結果、何が起こったかというと、ロスターの高齢化。「こいつは長いこと働いてくれそう」という選手に対して再構築を持ち掛けるのだから、その選手はたとえ衰えようがそのサラリーがネックになってトレードもカットも難しくなる。そして高齢化の結果が、ケガの増加と不良債権

 

2016から2020まで、ロスターの平均年齢は若い順位で28位23位11位31位19位である。そりゃ平均以上にケガも増える。

 

そしてロスター構成は極めていびつ。
この文脈で頻繁に例に挙げられるのがLBとDL。
LBについては、2020シーズンインの段階で試合経験があったLBはNate GerryとSTとして獲ってきたDuke Rileyのほぼ2名。残りはルーキーとUDFA2年目とCFL上がり。

なんでこんなことになるのか。それは「強いLBは必要ない」という彼の『哲学』によるもの。

DC SchwartzはDET時代からLBを非常に大事にしており、実際、2019まではPHIにもBradham(2016にBUFで一緒だったSchwartzの伝手で契約)がいたし、2018まではHicks(2015にChipが指名)もいたし2017まではKendricks(2012にReidが指名)もいた。

この3人がいたからSBに勝てたときのD#は良かったのだと信じている。
ところがスキャンダルがあったKendricksは別として、そのあたりの選手は流出するがまま放っておいてスッカスカに。
Schwartzもやりにくかったろうと同情する。
ちなみに彼には選手に関する決定権はなかったよう。
これも本人が明らかにしているので事実。

 

あまりに酷いからさすがに2020ドラフトでは3巡でLB指名したけど。Davion Taylorて。速いだけの超素材型ですやん。
3巡でこの事情をかかえるチームが指名する選手ではないでしょうに。
STスナップは多かったけどそこじゃない。

 

一方でDL。ここにはとにかくふんだんに金をかけはる。
お高いCoxがいるところにMalik JacksonにJavon Hargraveに。

確かにDLへの投資が最高の結果となって返ってきたのが2017だった。
それは事実なのだが、もう少し自分が雇ったプロのコーディネーターの意見を取り入れたロスター構成にしてはいかがか。あなたは万能の天才なのか。

 

 

3.権限

これが衝撃。

2020のシーズン中に出た情報として、「誰が試合に出るかは週末にRosemanが決めているから(本気の練習をする)水曜時点ではコーチは誰が試合に出るか知らない」というもの。

通常、NFLチームでは、水曜時点でラインナップをあらかたHC以下コーチ陣で決定し、当然各ポジションコーチもそれを認識したうえで練習では指導にあたっているのだとか。それはそうでしょう。

 

しかしPHIにおいては、そうではないと。
いやいやいやいや。素人やん。あんた素人ですやん。
そらPedersonも「来週はHurtsか?」って聞かれても「なんとも言えない」って返すしかないですね。
さすがにここまでくると俄かには信じがたいし、程度の問題もあるのでしょうけど、そりゃWentzかて出ていきたくなる。

 

 

経歴とオーナーとの関係性

Howie Roseman。本名Howard Roseman。


幼い頃からNFLチームのGMになることを夢見ていたRoseman少年は、高校生時分から各チームに非常に熱心に自分を売り込んでいたそう。

フロリダ大卒業後、悪名高い?フォーダム大ロースクールを出て、1998年にめでたく無給インターンとしてPHI入り。
実にPHIでのキャリアは人生の半分に達する。最初はサラリーキャップを担当、その後メキメキと頭角を現し、2010年にGM就任。

 

オーナーのJeffery Lurieという男は、実に部下への要求が厳しい人物なようで、ボストンでの幼少期の頃からの友人であり、Eagles買収の時からLurieの傍にいてReid体制下でも功があったJoe Bannerであっても、最終的にはうまくいかなくなった様子。

 

そんな仕えにくい男から、叩き上げのRosemanは非常に深い信頼を勝ち取っているとのこと。
この絆は外から理解しがたいものがあるが、Lurieが今欲しがっているものを察して差し出す能力が極めて高いというか、平たくいうと取り入るのがうまいというか、まあそんなところでしょうか。
どんな組織にもそういう人っていますよね。

 

Chip時代の2015の失敗と、その後のSB制覇を経て、どうやらLurieの信頼はますます高まった様子。

今回のSirianni体制がうまくいかなくてもRosemanのクビは揺らがないまであるのではないでしょうか。

 

これ以上Roseman体制が続くと、他のチーム内のスカウトとかへの影響が心配される。

俺たちが仕事してもあいつは聞かんじゃないかとなってしまえば元も子もない。実際、PHIから出ていったexecutiveが成功するたびに嫌な気持ちになる。最近でいうとKCのBrett VeachとかCLEのAndrew Berryとか。

 

ここまで書いておいてなんだが、特にドラフトにおいて、Rosemanに全くセンスがないとは実は思っていない。

なぜならReidが去った最初のドラフトである2013、Lane Johnson・Zach Ertzと今に至るまで柱となっている選手を当てているのはRoseman。

 

この時がどうだったのかわからないが、まずは謙虚になって、ピックを増やし、スカウトの意見を聞いてやっていってほしいとは思う。

というか、本当は退場願いたいが、やっぱりいるとなったらそれぐらいしかファンとしてはすがるところがないのである。

 

なんとかいい方向にやっていっていただきたいというのが切なる願い。