このオフ何度目になるでしょうか。
Ertzの残留によって向こう3カ年ぐらいのTE事情が不透明になっております。
どうせここでどんな結論を出そうが当たるはずがないのだけれども、勝手に仮説を持っておくことがシーズン観戦においてもスパイスになるのではなかろうかという趣旨です。
その前に今朝のTransaction。
■Transaction
53の最後の1枠が念願のCBで埋まりました。DENのPSからUDFAのルーキーを引き抜いております。
CB Mac McCain III(North Carolina A&T)5-11 186lbs
ワシントンポスト紙がこのドラフト直前に彼のバックグラウンドに関する長い記事を上梓しておられますので、気が向けばこちらをご覧ください。
大本営の記載に倣うと、彼の名はMac McCain III。
ただし、彼は”Mac McCainさんのところの三世"ではない。
本名、Franklin McCain III。"Mac"は生まれたときからの通称。なぜなのか。
この謎を紐解くヒントは60年前のアメリカ合衆国にある。南部諸州では黒人差別の真っ只中。
North Carolina A&Tの1年生だった、Macの祖父に当たるFranklin McCain 氏は震えていた。
真っ当に生きる市民を裏切るアメリカ社会のシステムへの怒りと、その不平等なシステムの中では生きている価値がないという絶望に突き動かされて。
3人の仲間と語らった彼は、1960年2月1日、キャンパスがあるノースカロライナ州グリーンボロの、とあるダイナーに入り、”白人専用”の席に座り込みサービスの提供を求めた。
「運が良ければ長期の刑務所送り。運が悪ければ"a pine box(安い棺桶)”に入れられてキャンパスに戻ってくることになるだろう。だけれどもそのリスクすら恐れるに足らないほどの怒りを感じていた。」というのが氏の回顧。悲壮なまでの覚悟。
彼のこの行動はすぐに全米に報道され賛同者は爆発的に増加。その後高名なキング牧師の統率の下南部全域に拡大していくことになる。
それから4年余りのちの公民権法の制定という一つのゴールを迎えるうえで、この彼らの行動は"公民権運動のきっかけ"と評価されるほど大きなことだったようで、彼ら4名は” the Greensboro Four”と称され、North Carolina A&Tは彼らの勇気をたたえてキャンパス内に銅像を建立。
上に掲げた写真はその祖父の像の前に座るMac青年のもの。
そして本題に戻る。
かように高名な公民権運動の勇士を祖父に持つとなると、子供は否応なくその名から利益も負担も受けることになろう。そのことを懸念した両親は、父親自身もその名に苦労したこともあったため、長じて自ら判断できるようになるまで"Franklin McCain"の名から我が子を遠ざけておくためにMacと名付けた、というのがその名に込められた想い。
以上、アメリカ現代史の勉強でした。
気骨の祖父の母校であるNorth Carolina A&TはFCSのMid-Eastern Athletic Conference所属。著名な現役選手はCHIのTarik Cohen。
高校のJuniorシーズンになって本格的にフットボールを始めたMac青年にスカラーシップのオファーを出したのはNCA&Tだけだったようで、迷わず彼は祖父の母校に進学。これは多分その名を持つことによる利点。
レッドシャツを経てプレーした3シーズンすべてにおいてオールカンファレンスに選出される。
積み上げたスタッツは3年間で29試合出場 113タックル 1FF 30PD 8INT(374ydsリターン+4TD)という立派なもの。
ユース時代には現Miami HeatのC Bam Adebayoと共にプレーしていた彼は当然NBA選手になることを夢見ていたそうだが、無念身長は6フィート手前でストップ。
高校ではトラックでも活躍(100m 10.90)していたアスリートであり、フットボールにおいては経験不足のためプレーリード、ルート予測、ランサポート、タックリング等で課題はあるようだが、4.48という40ydsのタイムよりはプレースピードは速いとのこと。以上がドラフト時の評価。UDFAでのプロ入りは妥当だった様子。
その他付け加えておく必要がある情報としては、負傷歴。2年次の2018シーズン終盤に左膝のACL断裂歴があり、その影響で2018の終盤4試合と2019の序盤3試合を欠場している。
「(座り込みは)世界を救うためにやったわけではない。自分の尊厳を手に入れようとしただけだ」という気骨の祖父の薫陶を受けたMac青年は、父に言わせると「意欲と意思を持っているところや他人の評価を気にしないところが祖父譲り」だということで、大学時代にはパーティの招待も断って朝4時半に起きてトレーニングをするというルーティーンを崩さないというストイックさ。
そのストイックさは学業面にも発揮され、A&T出身者らしく農業ビジネスの学士号と修士号を取得済みで、シーズンがキャンセルされた昨夏は、ノースカロライナ州の議員のもとでインターンとして活動していたとのこと。将来は”農務省でフードデザートの問題に取り組みたい”という希望を持つ。あれ?フットボールは?
そんな彼をDENも気に入っていた様子でPSに残していたが、ロスター入りにまで至らなかった。大きな理由はやはりケガ。トレーニングキャンプ中もちょいちょいハムストリングの問題で練習できなかったことによるもののよう。
プレ最終戦ではCBで最多スナップタイの出場だったので、まあ弊社で言うとMichael Jacquetとかと同じような立ち位置だったのか。
ロスターに入れるほど即戦力なのかは判断つかないところもあるが、今のPHIが気に入りそうな背景とか資質を持ってそうな男であることは間違いない。
非常に落ち着いた眼差しからは知性を感じる。素行面での不安は一切ない。
その大きな名を自分の色に塗り替える戦い、陰ながら応援しております。
■他チームの契約延長とPHIのTE事情
話は変わり、もともとこっちを本題にしようと思っていたネタ。
契約延長は他チームに影響を及ぼすという点をあのチームには訴え続けていきたい。
BALがTE Mark Andrewsと契約延長。
4年総額56M。TE界隈では二大巨頭に次ぐ3番目の年平均額。
これは非常に良くないニュース。
2021は2018ドラフト組の契約最終年にあたるが、以下がTEの指名順と3年間のレシーブ系通算成績。
1-25 BAL Hayden Hurst 44試合 99捕球 1,083yds 9TD(現ATL)
2-42 MIA Mike Gesicki 47試合 126捕球 1,475yds 11TD
2-49 PHI Dallas Goedert 42試合 137捕球 1,465yds 12TD
3-86 BAL Mark Andrews 45試合 156捕球 2,105yds 20TD(+プロボウル1回)
3-98 HOU Jordan Akins 45試合 90捕球 1,046yds 3TD
(以下省略)
BALから放り出されたHurstはさておき、GesickiとGoedertがほぼ同実績で、プロボウラーという箔がついている同期はAndrews1人だったため彼の金額がGoedertの指標になることは知っていた。
だが、14Mは思っていたより高い。
AndrewsとGoedertのレシーブ成績を比較すると、Andrewsのほうが良いのは明白だが、プロボウル補正と合わせてじゃあどこまで叩くのがGoedertの適正価格か、というのがわかりにくい。
Andrewsと同じく、Goedertもブロッキング面での貢献度が高く、その点スタッツには見えづらいところ。
そしてGoedertに金を払いづらい理由が
・ずっとErtzの2番手だったため独り立ちできるか不明
・ちょいちょい小さいケガで抜けるのなんとかならんか
ぐらいで上の理由がやはり大きい。
これを見極めるための最終年だったはずで、いよいよ独り立ちさせてどうなるかを見たかったがここへきて予想外のErtz残留でGoedertの成績が過去3年並みに落ち着いてしまうのはほぼ確実。
そうなれば、やはり外へ出て自分の市場価値を試したいという気持ちが芽生えるであろうことは想像に難くない。
さらに。
2018ドラフトにおける彼の指名経緯(直下の2-50にいてJason Witten引退直後だったDALへの嫌がらせ。名前も含めて。結局DALは、プロでの比較対象が"Ertz"だったStanfordのSchultzを4-137で指名。)を考慮に入れると、もしかすると真っ先に飛びつくのがDALかもしれないという地獄絵図。
あのチームはこのドラフトでも一瞬Kyle Pittsほしがってる説が出ていたのでTEへの渇望は収まっていない様子。加えてWR2のGallupが次のオフでFA。放流濃厚との噂。
参った。いま延長しとかないとDALに行かれるのは確実ではないかと思えてきた。
6月ぐらいの段階だったか、契約延長のことを問われたGoedertの回答は”いっぱいお金欲しい”というシンプルなものだった。
この時点では19オフFAのAustin Hooper(CLE)の4年42M近辺かちょっと超えるかでは、という憶測記事を見たので腹は括っていたが、年14Mはそれをはるかに超えている。
”PHIで引退したい”とおっしゃる功労者Ertzの2022以降の去就は不明だが、彼との2枚残しとなると相当にサラリーの負担感は大きい。
そしてもう一つ考慮しないといけないのが、”実質TE4人体制”という現ロスターのいびつな構成。
Tyree JacksonをIRに入れる関係で一時的にStollを確保しているだけなのならこの憶測は無意味だが、そうでないのだとしたらそれってErtz・Jackson・Stollを2022以降の基本線にするということにならないかね?
そういうわけで出てきたのが、前回唱えた”GoedertはWR(というかDarren Waller)説”。
彼が半分WRのようにプレーできるのだとしたら、このあたりの懸念は一挙に解決する。ブロッキングに定評があるStollの存在も”Goedertのブロック力の補完”だという説明がつく。
Wallerが高いとはいえ、半分WR扱いだと思えば、当面異常に安いことが確定しているPHIのWR陣なので充分払えそう。なぜか今年のWRは5人ですし。
そしてErtzとの来年以降のサラリー的な共存も可能。
去年は一瞬Ertzをそのように使おうとしていたが、いかんせんPedersonにその腕がなくてスポット起用に終わっていた。しかし今年は、去年FloridaでOCとしてKyle Pittsの戦力を最大化した張本人・Brian JohnsonがQBCとして入閣しているのでそのあたりのアイデアには事欠かない。だから大丈夫。
長々と述べましたが、答えはWeek1に出る。
Goedertの起用が去年まで同様純粋なTE扱いなら、彼は2022から星を身にまとう。
WR的な扱いが増えれば彼とPHIの未来は明るい。
以上、被害妄想もふんだんに盛り込んだ妄想記事でした。