アナリティクスの進歩に伴い、論争は激化している。
Runなのか?Passなのか?
この深遠な話題に終わりはないのだろうし、統計に関する専門知識もないのでとりあえず主張を並べることに終始したいと思います。ただし、当然バイアスはかかっております。
事実
QBのPass成績の平均値はこの20年間で改善している。
Some NFL averages from 1999 through today:
— Reuben Frank (@RoobNBCS) 2021年12月1日
Passer rating:
1999: 77.1
2021: 91.6
Completion percentage:
1999: 57.1
2021: 65.2
Interception ratio:
1999: 1 every 30.7 attempts
2021: 1 every 43.5 attempts
TD passes:
1999: 1 every 26.0 attempts
2021: 1 every 21.8 attempts https://t.co/l6geRNu8nx
要因は様々ありそうで、主に言われているものは以下の3つぐらい。
- ルール変更によりパスがより簡単で効率的になったこと(DBのコンタクトが制限されたことも含む)
- CBA(労使協定)の変更により練習での接触が制限されているため、オフェンスがフィジカルなランゲームを洗練させることが難しくなっていること
- NFLでのパス増加に伴いハイスクールやカレッジのコーチングが良くなったこと
全般的にパスハッピーを誘発する方向にはありそう。
アナリティクスに基づく主張
これはもう多岐に及ぶ。これを簡単に要約するのは非常に危険だと思うので長くなりますが少々お付き合いください。
とりあえず結論から。
アナリティクスの結論:パスはランよりも効率的で、より多くの得点につながる
- NFLチームのコンサルタントを務めるWarren Sharp(PHIフロントも彼を信奉している)とドイツの統計博士Timo Riskeの主張
「ランの強さと勝利に相関はない」
2011年から2014年までのデータを用いて、ラン1回あたりの獲得ydsと勝利数、同総獲得ydsと勝利数、パス試投1回あたりの獲得ydsと勝利数について回帰分析を行った結果、パス試投1回あたりのヤードだけが勝利と相関している、という結論。
"ランはパスを補完するために使われるが、今日のNFLではパスが勝敗を左右する" - 同じくNFLチームのコンサルタントも務めるJosh Hermsmeyerの主張
NFLにおけるオフェンスの得点力は、パスの増加に伴い増大している。
パスの方がランよりもはるかに効率的。
NFLでパスが多用されるようになっても、パスの効率は低下していない。それどころか、パスでヤードを稼ぎ、得点することでより効率的になっている。
NFLのフットボールが進化するにつれ、コーチたちはパスゲームでディフェンスを攻撃するより効率的な方法を見つけ出し、QBの能力も向上している。
NFL全体がパスを得意とするようになってきていることは確かで、この傾向は今後も続く。
プレーアクションパスは何回やっても同じだけ効果が出る。 - The Athletic誌のBen Baldwinの主張
1.ある試合において、パスの効率はランの効率よりもはるかに大きな範囲で勝敗を予測する。
2.強力なパスオフェンスは、他のユニットに比べて長期的に持続する可能性が高い。
3.ただし、プレーアクションパスは非常に有用で、QBが使える時間が増えるというメリットがある。しかもプレーアクションパスの効果とランオフェンスの強力さには相関がない。(≒プレーアクションパスはいつでもだれがやっても効果的) - Hermsmeyerの最後の主張とBaldwinの3.の主張については補足が必要な気がするが、Hermsmeyerは選手のトラッキングデータをもとに、
"LB1人1人がプレーアクションに引っかかることによって無駄にする距離"
を調査。
それによると、
”ある試合における12回目のプレーアクションパスまでは毎回同じ距離を無駄にしている”という結果が出たそう。
(13回目以降は変動が出るが、そもそもそんなにコールされることがないのでサンプルサイズが小さくなるとのこと)
Baldwinは各チームのプレイアクションでのパス試投1回あたりのydsと通常のドロップバックでのパス試投1回あたりのydsの差を、ラン獲得yds、ラッシング回数、ランプレーの成功率と関連づけて分析。
その結果、ランプレーの各カテゴリーは、プレイアクションの効果に影響を与えないという結論が出たとのこと。
つまりこれらにより導かれる結論は、プレーアクションパスはいつでもだれがやっても何度やっても効果的だ、というもの。 - PHI元球団社長Joe Bannerの回顧
かつて、現在名将と謳われる故・Bill Walsh(元SF HC・SB3回制覇・West Coast Offenseの始祖・HoF)も1st Downからパスを投げるようになるまで勝てなかった。
その方法論の正しさは現在のAndy Reid(Walshの孫弟子)の成功によって証明されている。
俺たち(PHIでのReidとのタッグを指す)は試合開始からとにかくパスを投げて早くリードを奪うことで勝ってきた。 - PHI元球団社長Joe Bannerの主張
「ランを確立」するという考えは神話でしかない。
シチュエーションが限定されずDefenseが一番守りにくい1st Downから積極的にパスを投げていくべき。
アーリーダウンはパスで攻めるのが一番効率が良い。
”1st Downをランから始めてマネジメント可能な2nd Downや3rd Downのシチュエーションを作る”
という考え方は的外れで、偉大なるコーチ(WalshとかReidとか)は2nd Downで決着をつけるべく1st Downからパスをコールしている。
プレーの2/3をパスにできるのが理想。
プレーアクションパスはQBに投げるまでの時間を多くもたらすので効果的。
ランプレーでDLが疲れるというのはとんでもない錯誤。
DLにインタビューしたら100人中100人が”パスラッシュの方が疲れる”と言う。
だけれどもRBが不要だとは言っていない。
獲得ydsは短くなる分、成功率があがるRBへのパスは有用。
パスゲームで活躍できるRBは貴重。
だけど12M/年は払い過ぎ。
なまじ専門家よりも成功体験にすがりつくこいつが一番原理主義に傾いているのは本当に皮肉。 - アナリティクス的側面からの推奨事項
- ランゲームは勝利に結びつかないので、ランゲームに多額の投資をするのはNG。
- プレイアクションを多用する。ドロップバックパスよりも効果的で、"ランを確立"されていなくても機能することが証明されているから。
- 8人のBoxに対してランをコールすること勿れ。
- パスの限界を試し、"不必要に"ランを強要しないこと。
- パスを使ってランを準備する。
(ディフェンスがパスにアジャストし始めたらランをする) - シフト・モーション等あらゆる形態のディセプション(欺瞞)はオフェンスの最も重要な要素である。
- ランゲームは、ショートヤードやレッドゾーン、そして時間を短縮するためには有効。
アナリティクスへの反論
一方で、アナリティクスへの反論も当然ある。
出てくるのは「統計で測れない部分」であるとか、「平均値がもたらす誤謬」とか。
主な反論は以下。
- 元オールプロOT Mitchell Schwartzさんの主張
ランゲームはフットボールに特徴的な動物的なフィジカルの発露である。
なぜ新任のHCは「タフネス」「フィジカル」「ディシプリン(規律)」について語るのかを考えろ。
ランゲームにおいてフィジカルでD#に対して優位に立つことのもたらす影響についてアナリティクスでは測りきれない。
DCからしてもパスで8yds毎回獲得されるよりもランで8yds獲得されるほうが心理的につらいはず。
コーチや選手は、ランゲームの成功や失敗は、ポジティブにもネガティブにも、精神的に大きな影響を与えると言っているのが事実。
その影響はフィールド上の他のすべてのことに影響を与える。 - アナリティクス的な反証(The Athleticより)
パスのためのドロップバックで起こるターンオーバーの確率は2.9%。
一方でランプレーのときに起こるターンオーバーの確率は0.6%で約5分の1。
ある統計によれば、サックが発生した場合、そのドライブで1st Downを獲得できる確率は16%に低下する(元の確率は不明)。 - アナリティクス的な考え方を理解した匿名のコーチの主張(The Athleticより)
試合に勝つためにランは必要なくても、パスを出すためにランプレーは必要。
フィールド上で一番のアスリートであるDLがどんな形であれプレーを予測しやすい状況を作るとOffenseは不利になるのでそれをさせないためにもランプレーの存在は必要。
統計の欠陥(①ランゲームではビッグプレーは少ないが、安定したヤードを稼げる、②パスプレーには平均値には反映されない高い変動性(爆発的なプレー、不完全なプレー、ターンオーバー、ネガティブなプレー)がある)を考えても一定程度のランは必要。
"ランプレーはミクロ的には非効率かもしれないが、他のプレーを出したり出しやすくする効果があるのでマクロ的には効率的だと言える"。
PHIにおける運用
フロントがどこまで現場に容喙しているのか、ということはここからわかりづらいので何とも言えないが、少なくとも原理主義者Joe Bannerに代表されるように、PHIフロントはこのアナリティクスが大好き。
一部では詐欺師呼ばわりされているWarren Sharpのことも大好き。
だから理想のWest Coast的なOffenseを展開できないHurtsには納得していない感がムンムン漂う。
だが、PHIにおいて神格化されているAndy Reidが現時点でだいぶ苦戦していることは明白で、むしろ今日的に一番成功を収めているOffenseマインドのコーチはもれなくShanahanツリー(GB Matt LaFleur・SF Shanahan・LAR McVay等)であり彼らはしっかりランプレーの重要性を理解しているように(外からは)窺えることに鑑みても、現フロントの考え方には首をかしげざるを得ない。
まあ諸悪の根源がオーナーっぽいのでどうしようもないですが。
個人的結論
そりゃTom Bradyのチームであればランプレーなんてアクセントでしかない。
だがあんなQBは歴史上1人だけ。今後も出てくるかわからない。
現役のリング持ちQBはGOAT以外にMahomes・Roethlisberger・Aaron Rodgers・Russell Wilson・Foles・Flaccoがいる。ちょっと待て6人しかいないのか。
このうち複数個持っているのはBig Benただ1人。そしていまスターターじゃない後ろ2名を除くと結局4名ともランプレーの確立を課題としてもがいている様子が(外からは)窺える。
なのでたぶんアナリティクスだけを拠り所にしてもダメだし、無視しすぎるのもいかがか、というありきたりな結論になるしかない。
しかし、いかにアナリティクスの達人であっても、”よっぽどランが出る、平均を遥かに超えるランユニットを持っているのであればそれを最大限に活用すべき”ということについては口を揃えている。
Bannerは言ってないけどそもそもあいつは専門家じゃない。
少なくともプレーアクションパスの有効性はどの側面から見ても否定できなそうなのでこれを多用することは前提として、"平均を遥かに超える”レベルのOLを揃えていると思える現PHI Offenseにおいては、やはりアナリティクスの外れ値としてHurtsを中心としたランを強調していくしかないのではないか。
Hurtsの成長はプレーアクションで時間をしっかり確保して投げさせるところからやっていきましょうよ。
そう思う次第です。