ドラフティ紹介続けていきます。
今回は、6巡まで零れ落ちていたデカWRについて。
ドラフト前の段階ではスピードスターが欲しかったのであまり深くチェックはしておりませんでしたが、調べるほどに応援したくなってきました。
物語
カリフォルニア州はLA近郊で育ったJohnny少年は8歳のときからフットボールに夢中に。
小さいころからこのサイズとスピードは傑出していたとのことで、始めたころのポジションはRBと、"Defense全ポジション"。
その後、RBにしてはデカくなりすぎたからなのか、WRにも取り組み始めてそれが本業に。
そして高校の2年次にはすでに6'5"(196cm)にまで成長。
さらに同僚のJermaine Burton(Georgia→Alabama→3巡でCIN)と合わせて相当な実績(4年間で43TDレシーブ)を積んだこともあって全米の注目を浴びる存在に。
大学進学時は4-StarプロスペクトとしてClass of 2020のWRでは18位とか20位ぐらいの評価(上にいるのはKayshon Boutte(LSU→23ドラフト6巡でNE)・Jaxon Smith-Njigba(Ohio State→23ドラフト1巡でSEA)・Jalen McMillan(Washington→3巡でTB)・Quentin Johnston(TCU→23ドラフト1巡でLAC)・Burtonとか)。
争奪戦はUCLA・Nebraska・USC・Oregonあたりを皮切りに全米から、Oregon・Washington・Ohio State・Notre Dame・Georgia・Florida Stateなんかを含む40近くのオファーを受けて一時はOregon入りを決めるが、最終的には当時のHC Herman Edwardsと、有能なる彼のメインリクルーター Antonio Pierce(現LV HC)の熱烈なリクルーティングを受けて翻意、土壇場でArizona State入り。
ここまでは完全にエリートの道のり。
Arizona Stateで2年間プレーするが、Arizona Stateのリクルート活動に"Covid蔓延中のリクルート禁止期間を無視していた"というルール違反が判明。
恐らくとの当事者だったJohnny君は、全体2位となったQB Jayden Danielsなんかと一緒にトランスファーポータル入り。
(結局、これを発端としたスキャンダルなんかもありAntonio Pierceも含むHerman Edwards以下の体制は解体。)
Johnny君の話に戻すと、ケガなんかもあってArizona Stateで一切と言っていいほど実績を残せていなかったこともあり、2年前の人気沸騰ぶりと同じ世界かと疑わんばかりにトランスファーポータルで大苦戦。
結局、ぎりぎりで手を差し伸べてくれた、かつて誘いを断ったFlorida State入りで話は落ち着く。
そしてそこから奮起。
トランスファーポータルで迷子になりかけた選手も、2年間しっかり活躍してドラフトにまでかかったんだから(4-Starというカレッジ入り前の評価を無視すると)大したものです。
ドラフトプロセスにおける各種測定結果はこちら。
WRとしてはかつてない巨大さであることがおわかりいただけただろうか。
使われ方と特徴
Florida Stateでの使われ方
- Arizona StateではSlot起用も見られたようだが、Florida Stateではほぼ(90%近く)外WRでの起用。
- 浅いエリアでボール渡すからRACがんばれ、という起用はあまりなく、主戦場はインターミディエート(10~20yd)から深め(20yd+)。
最終年にやや浅いエリアでの起用も増えたが、こっちはあまり得意ではなさそう。
スピードが並であることからも、RACというより密集地帯で競り合うほうが性に合いそうな印象を受けている。
- 大エースKeon Colemanにカバーが集中するなかで、Colemanが奥にDBを引っ張って空いたスペースに逆側から飛び込んでくる、というのが必殺の武器。
- パッケージの妙、というもの以外ではシンプルなサイドライン際が強い。
- イン系のルートでもしっかり使われており、ここも動きのキレでCBとセパレートを作ってしまえばあとはそのデカい身体を使ってしっかりキャッチ、そしてRACに持ち込むという動きがよく見られる。
- あらゆるルートで使われている印象があり、このテのタイプにありがちな、"サイドライン際のコンテストキャッチしかできません"という育てられ方は全くしていない。と見た。
出来ること
- サイズを活かしたキャッチ半径の広さと、LB相手であれ身体を入れてレシーブに持ち込むのがお上手。
このサイズの選手が前に立ちふさがってしまったら小柄なDBはおろかLBであってもどうしようもなかろう。
サイズだけでいうと十分に並みのTEよりデカいのですから。
- その割に動きはスムーズ。
リリースにもどんくささは一切感じられないし、カットも鋭い。
サイズの割に動けすぎるというのが、特に2022シーズンの映像を見た時の印象。
- 駆け引きが上手い。
スムーズな動きに加えて、その前のフェイクもちゃんと入れるので実際の動きがさほど速くないにしても、DBはちゃんと引っかかる。
そしてこの巨人に対するときに気をつけねばならぬのが、セパレートとしては1ydかもしれないがリーチを伸ばすとさらに1ydぐらいは遠いところまで届いちゃう、というところ。
背負われてしまうとどうしようもないというのはDBにとっては悪夢であろう。
速くてデカいTEと対峙していると思ってください。
- RACができないとは一言も言っていない。
ただ、得意なのはそのデカい身体でDBを引きずって、あるいはその長いリーチでDBをつぶして、もしくは振り払って、というパターン。
DeVontaとかに見られる、ブロッキングとレーンを見極めてするする抜ける、というタイプでは断じてないが、キャリア通算5.3yd/Rec(ベストは2022の7.1yd/Rec)という立派な数字を残している。(DeVontaは通算で8.8yd/Rec)
イメージは、A.J.よりもパワー寄りの走り、という感じ。
- リリースもうまい。
フットワークで、というよりもその長いリーチを活かしてきれいにCBの腕を刈り取って、という動きが印象的。
- ブロックはお手の物。
触れることさえできればCBにできることは何もない。
このドラフトにかかったWRではこの分野は断トツ。
- どうしても期待してしまうのがレッドゾーン。
目を惹いてやまない、というほどの実績は残していないが、サイドライン際が強かったことから足を残す意識もあろうし、競り合いでのハンドキャッチもできるので素質は十分にある。
長らく望んで仕方なかったレッドゾーンでの武器がようやく手に入ったか。
できないこと足りないこと
- キャッチ。
悲しすぎることにキャッチが下手。
こんなに手がデカいのにキャッチが下手。
絶望的にドロップする。
カレッジ4年通算でのドロップ率12.8%というのは何の悪夢なのか。
めちゃくちゃ成長した最終年2023シーズンでもその数字は10.9%と大台を超えている。
6巡にまでスリップした理由も恐らくこれだけなんじゃなかろうか。
では、この12.8%という数字はいったいどれぐらいのものなのか。
我らの心に深く刻まれるドロップキングというと、新しい方から順にQuez Watkinsさん・Jalen Reagorさん・JJAWさんという名が頭痛とともに挙げられよう。
その恥ずべき先達たちのカレッジ時代の通算ドロップ率は以下である。
Quez Watkinsさん:通算8.7%(最終2019シーズン:10.0%)
Jalen Reagorさん:通算9.8%(最終2019シーズン:14.0%)
JJAWさん:通算7.5%(最終2018シーズン:6.0%)
認識がなかったんだが、JJAWさんという人はシュアハンドの持ち主だったんですね。(皮肉)
せっかくなので参考までに、一流の数字も並べておこう。
A.J. Brownさん:通算6.9%(最終2018シーズン:5.6%)
DeVonta Smithさん:通算3.7%(最終2020シーズン:2.5%)
やっぱりハイズマンウィナーはケタが違った。
イメージとしては、"Jalen Reagorさんばりのキャッチ力"ということでご認識おきください。
なお、Johnny Wilson君は6巡185位での指名です。1巡21位と同列に語っては断じてならないのです。
評価と期待
ドラフト時の評価
いいところ
- 大きなターゲットとパッドでバスケットボールのフォワードのように見える。
- 腕の長さを自覚して、ディフェンダーが届かないように身体の位置を調整したりボールを取ってすぐディフェンダーから遠いところに奪い取ることができる。
- 長いストライドを活かした加速がある。
- ワンカットのルート(スラント、ポストなど)が得意でスピードを落とすことなくカットを切ることができる。
- キャッチ後も大きな体を使ってタックルを崩すことができる。
- 過去2シーズンで20ヤード以上のキャッチを30回記録(ACCでは2番目に多い)し、1st Down獲得またはTDが全体の77.4%と、チェーンを動かすことができる。
- ブロッカーとして有能。
伸びしろ
- 一貫性がない。
- スピードは平均的であり、ディフェンダーによって減速された後、フルスピードに戻るのが遅い。
- ルートランのキレ味があるとは言えず、CBからセパレートを取るのに苦労している。
- NFLのプレスに適応できるか疑問。
- 天性のハンドキャッチャーではない。
- コンテストキャッチは優秀だが、その異次元のサイズを考えると物足りない。
- 2023シーズンはエンドゾーンにアレルギーがあった。(10試合中、レッドゾーンでのTDは1つだけ)
- 意外とタフではないので強いプレスに遭うと苦労している。
- インブレイクルートで集中力が途切れる。
- ハムストリングで2021シーズンのほとんどを欠場しているなどちょくちょくケガがある。
- STでの貢献が見込めない。
個人的な期待
- 指名後の会見で、Rosemanが"TEとして使うのか?"と聞かれた際には即座に"NO"という回答をしている。
それで結構。
充分にWRとしてやっていけるであろう素質を持っているとお見受けした。
- 印象的なのが、そのフットワーク。
ルーキーミニキャンプで小柄な元1巡でスピードスターのJohn Rossと似たような切れ味を見せていたのには本当に感動した。
あまりにも感動したのでもう一度貼っておく。
John Ross and Johnny Wilson in drills #Eagles pic.twitter.com/JL3O5LeQbs
— Jeff Kerr (@JeffKerrCBS) 2024年5月3日
- 上手く育ってくれれば待望のレッドゾーンでの武器となる。
デカSlotとしても起用の可能性があると思うとKellen Mooreにとってもいい補強になろう。
個人的にはスピードスターを加えてほしかったところだが、インターミディエートで強いこの男が本格化するのであれば万能なDeVontaやA.J.の使い方にも幅が出るでしょう。
一切不満がないどころか、想定していなかった面白そうな選択肢に興奮が止まらない。
- デプス争いとしては、 ベテランのDaVante Parkerが完全にタイプの被る対象。
その他はParris Campbellとかが勝負の相手になろうが、こやつは現ロスター唯一無二のスピードの持ち主ゆえこの枠を奪うのはなかなか難しそうな気配。
そんなことより一日も早く向上してほしいのは、ST。
控えWRとなるとSTでの貢献がどうしても必要になる。
高校からエリートとして生きてきた人間が、ReturnerでもないSTの地味ながら重要な仕事をしっかり務められるかは見えにくいが成功への重要な試金石。
なにせ6巡まで残った男。
ここが出来ないとどのチームのロスターにも残れない。がんばるのだ。
キャッチさえできれば、かつてKyle Pittsに見た"デカいNo.1 WR"という夢を託せそうなタイプである。
ロスターにいなかったタイプではないが、2022シーズンぐらい輝いてくれれば重要な場面でA.J.・DeVontaをデコイに使って…なんてこともあるかもしれない。
よく映像を見るととても好きになった。
目の前の53ロスターへの壁は厚いが、どうかがんばってくださいませ。