RBが必要なのはなんとなくわかっていた。
だがここに飛びつくのは意外でした。言われてみるとこのテのタイプが大好きだったのを思い出した。
物語
ユースカテゴリーにおける何のかわからないがスポーツのコーチをしていた父のもとに生まれたWilliam少年は、同じくスポーツ万能だった兄と一緒にちびっ子のころからとかくあらゆるスポーツに熱中。
野球・バスケットボール・空手(黒帯保有者)などなど。
その中から最初に頭角を現したのがラクロス。
North Carolina州シャーロットではラクロス界でのトップユース選手にまでのし上がる。
それと時を同じくして、フラッグフットボールが入口で取り組み始めたフットボールでの才能が爆発。
RBとSとしてプレーした高校時代は1年目から合計1,113yd13TD+84タックル2INTと大活躍。
2年目はもう書かないがさらに数字を伸ばし、All-State・All-Country・All-Conferenceでの1st Teamに輝く。
まあ当時の全米最優秀RBということでしょうか。
そして3年目にさらに輝きを増すのだから驚く。
前年6.9ydだった平均ラッシングヤードを、この年は驚異の11.0ydまで伸ばし、188キャリーで2,066yd獲得という数字を叩き出す。
この活躍もあってチームは全勝優勝。Shipley自身も2年連続となるAll-Stateの1st Teamに選出される。(最終4年目はパンデミックのためプレー機会なし)
というフットボールでの活躍もさることながら、野球・陸上でも相当な実績を残していたのだそうです。
そして5-starプロスペクト、RBとしてはOhio Stateに進んだTreVeyon Hendersonに次ぐNo.2プロスペクトとして争奪戦が巻き起こる。
高校に入った当時、大学ではラクロスをやろうと思っていたようだが、高校1年次の活躍後すべての景色が変わる。
その時点で既にDuke、そして地元というか家族のほとんどにとっての母校であるというNC Stateからも早速奨学金のオファーが届く。
その後の活躍もあり、結果的にはAlabama・Georgia・Ohio State・Notre Dame・Stanford・Clemson etcetera… という全米の名だたるプログラムからお声がかかる。
5-starってのはすごいんですね。
結局、その中からDabo SwinneyのClemsonを選択。
1年目からしっかり試合に出て3年間を過ごし、そのままアーリーエントリー。
PHIとはドラフトプロセスの早めに接触していたようで、RBCのJemal Singletonとはとてもいい関係を築けているのだそうです。
身体能力はこちら。
Will Shipley was drafted in round 4 pick 127 in the 2024 draft class. He scored a 9.58 #RAS out of a possible 10.00. This ranked 81 out of 1903 RB from 1987 to 2024. https://t.co/tcMeKK5Y2T pic.twitter.com/hLpkgcymJ1
— Kent Lee Platte (@MathBomb) 2024年4月27日
使われ方と特徴
Clemsonでの使われ方
- 鳴り物入りで入学してRB1。
ただし、3年間を通じていい感じで同僚RBたちとスナップを分け合っている。
特に同期入学のPhil Mafah(4-Star)はShipleyと異なりパワー系。
そのため最終年なんかはMafahのほうがランのアテンプト数は多くなっていたりする。
- とはいえInsideのランが苦手、とかいうことは全くない。
2023シーズンは謎にOL左側のランが出ていない(右側の半分程度のAvg.)んだがさすがにそれ以上は調べていない。たぶんOLのせいとかでしょう。
ちなみに2022シーズンにそんな傾向は出ていないので苦手とかではないはず。
- 主戦場はオープンフィールド。
パスで広いエリアに展開してクイックネスとアジリティでディフェンダーを抜き去るのが得意技。
非公式記録ではあるが、Clemsonのプロデイでは4.38で走ったという話もあるこのスピードが武器。
- ClemsonではしっかりZone Blockのランでも使われており、必要な視野の広さも鍛えられている。
カレッジであまりZoneで起用されてこなかったGainwellとは違って、スキームフィットも問題なさそう。
出来ること
- 視野が広い。
- 充分なバースト。
- 上記2つが、Zoneスキームで生きるRBに必要な能力。のはず。
どこが空くかあらかじめ決めないZoneブロッキングではDefense次第で空くところが変わる。
それを見極める視野の広さと、空けば一瞬でそこを駆け上がるバーストが絶対に必要。
それと少しの根性。
PFFによると、2023シーズンのPHI Offenseは、スクランブルを除くとプレーオフを含む18試合で391回のランを試み、そのうち259回がZoneブロッキングでのラン。
その比率は7割弱。この割合はリーグでも上位5傑には入っているほどの高さであり、Zoneブロッキング適性が高いRBは絶対に必要。(Saquonはなんでもできる)
ということでラッシングでも期待してよかろう。
- パスキャッチの能力自体はエリートではない(それなりにドロップする)が、オープンフィールドでボールを持ってから距離を稼ぐ力は一流。
2023PHI Offenseの課題は対Blitzでの引き出しの少なさにあった。
後述するプロテクションという意味では見るに堪えない力しかないShipleyだが、ホットルートに出すということなら話は別。
RBのマッチアップなんて大方がLBだろうということを考えると、ホットルートのつもりがビッグゲインに、なんてことも十分あり得る。
そうなるとBlitzの頻度も下がるのではないかと、そういう寸法。
Blitz対策にプロテクションが有能なRBを連れてくるなんて受け身なんだよ。
時代の最先端はすれ違いでビッグゲインを稼げるRBを連れてくることだよ。
というのはいま考えた。当たっていますように。
- スピードそれ自体がエリートであり、視野も広い。
そうなると、必然STでの貢献も期待できる。
前にも述べた気がするが、Clemson2年次の2022シーズンにはKick Off Returnerの部門でAll-ACC 1st Teamに選出されるほどの能力をお持ち。
リターンTDこそないが、34回904yd平均26.6ydのリターン実績は、特にKick Off Returnのルール変更がある今季からは非常に重要。
- しっかり分業されていた効能もあって、3年間ちゃんと試合に出続けたRBの割にはタッチ数が少なく、摩耗の可能性が低い。
(3年合計610タッチ。Saquonは同じく3年間を過ごしたPenn Stateでのボールタッチ数が774)
そして現在21歳と、それなりに若い。
できないこと足りないこと
- パワーが足りない。
これにより、プロテクションが弱いしラッシング時のコンタクト後の力強さもない。
前者はあきらめざるを得ないほどのしょぼさ。
PFFは彼のパスプロテクションに、3年間それぞれ34.9・23.3・25.2という評価を下している。
問答無用の赤点である。落第である。
3年通算でのプレッシャー率10.3%というのは、あまりのプロテクションの出来なさに泣かされたMiles Sandersさん(のPenn State時代)や、そのパワーのなさからやられすぎてHurtsの足首を破壊した記憶も新しいBoston Scottさん(のLouisiana Tech時代)をも上回る数字の悪さである。
ちなみに、2023シーズンにこの面でプレッシャー率15%超と急激に劣化して見せたKenneth Gainwellさんは、Memphis時代の実働2年間をノープレッシャーで過ごしているという非常に優秀なプロテクターでした。(PFFグレードは最終年である2019シーズンのみ数字が残っており、これが84.6なのでShipleyと比較するのがかわいそうなレベル)
どこでああなったのか。
- ラッシングの際のパワーはYCO(Yard after COntact)の数字で測るのが素直だと思うが、こちらのShipley君の2023シーズンの実績は2.97yd。
通算で3.14ydという成績。
たぶん合格ラインは3.00ぐらいにあるはずで、通算ならセーフだが2023シーズン単体ならアウト。
しかしまあClemsonのOLも実にひどいものだったので2023シーズン単体の数字は無視することにしましょう。
(同僚のMafah君が2023シーズンにこの指標でキャリアベストの3.67ydを記録していることには目を瞑ってください)
一応比較対象を置いておきます。
Saquon Barkleyさん:最終2017シーズン3.54yd(通算3.51yd)
Boston Scottさん:最終2017シーズン3.90yd(通算4.20yd)
Miles Sandersさん:最終2018シーズン3.81yd(通算4.07yd)
Kenneth Gainwellさん:最終2019シーズン3.45yd(通算3.74yd)
ね。Boston Scottさんと比較してもノーパワーということです。
中央へのランには期待しないでください。
本領は外ですので。
- ある筋の情報によると、2024ドラフトの候補者だったRB99人において、Miss Tackleの誘発率が92位、YCOが81位、Explosive Run Rate(15yd以上のゲイン率)が42位という数字。
まあこの辺が懸念なんでしょうね。
評価と期待
ドラフト時の専門家(Dane Bruglerさん)の評価
いいところ
- 過去3シーズンで合計2,700ヤード以上のラッシングヤードを記録した唯一のACCプレーヤーという生産性の高さ。
- バランスの取れたアスリートで、密集の中でもゲイン出来る動きの引き出しを持っている
- コントロールされたカットとタックルのアングルを予測する能力でディフェンダーを外すことができる
- 肩を落とし、受け身なタックルならかいくぐることができる
- ショートヤードでももともとのスピードと腹の括り方でしっかりチェーンを動かせる
- ユーススポーツでは2学年上げてプレーしていたため、年長の子供たちと競い合うことで持ち前のタフさと才能が磨かれている
- 効果的なパスキャッチャーであり、特にスイングスクリーンではボールを持った瞬間に前を向いてスペースに勝負できるRACの能力を持つ
- プロテクションでも手の置きどころはとてもいい
- Kick Offのリターナーとして平均26.6ヤードの実績
- コーチからは「アルファ」で「天性のリーダー」と評されている(NFLスカウト評:"あいつはチームメイトのケツに火をつけるだろう")
<参考映像:試合中にコーチとやり合うShipley>
Reordered the Shipley/CJ 🎞️ correctly to reflect what really happened 👇
— Shadow of Death Valley (@ShadowOfDV) 2023年9月17日
⏹️ Ship appears to hug inside angle too hard on run
⏹️ Guessing CJ told him that from sideline
⏹️ Ship yells "what are you getting mad at me for"
⏹️ Ship and CJ talk and CJ slaps his helmet
Big nothing🍔 pic.twitter.com/jIvMMgpnJX
伸びしろ
- 肉体は鍛えられているが、一部のプロスキームでは小さめと見なされる
- トップスピードまで素早く加速するが、そこからのギアチェンジはなく、独走状態になっても後ろから捕まえられることがある
- かけっこになってもチギれるほどのスピードは試合映像からは見えない
- 動きと動きの間に一拍空くことがある(エリートな滑らかさではない)
- パスプロテクションのメカニックを洗練させる必要がある
- ボールをもっと大事にする必要がある(キャリアで9回のドロップと8回のファンブル)
- 2021シーズン9月には左足の負傷で3試合を欠場(オフシーズンに手術)、2023シーズン11月には脳震盪で1試合欠場、12月にも左膝の負傷でボウルゲームをカートオフなど、ケガの遍歴がまあまあある
- Kick Offのリターナーとしては有能だが、それ以外はSTでの起用なし
個人的な期待
- 上に書いたことが全てだが、凡人の思考では「あれだけBlitz入れられるんだからプロテクションができるRBしかいらない」となるところを、「プロテクションならSaquonでそもそも足るしGainwellも成長するだろう。そんなことよりもっと根本的なBlitz対策を」という思考に行きあたって連れてきた選手にしか見えなくなった。
なのであればShipley君は革新的なPHI Offenseの特効薬。
こいつをセーフティバルブあるいはホットルートで最大限に活用できるのであれば、非常に攻撃的な3rd Downでの切り札ということになろう。
- ベースのランでも十分に使えるはずで、なぜならClemsonのOLよりはさすがにマシなOLの後ろを走ることになるから。
Rosemanの賢明なるところは、Shipleyがダメな時用というわけではないんだろうが、UDFAでKendall Milton(Georgia)を獲っているところ。Milton君はShipleyがダメだったYCOの分野で2023シーズンに4.12ydという素晴らしい成績を残しているのです。
だから大丈夫。何がかは分からないが大丈夫。
- とはいえプロテクションの場面がゼロになるわけではない。
この辺りはSaquonさんがリーグでも第一人者にあたるので彼の真似をして一日も早い改善をよろしくお願いします。
- そしてファンブルもないように。これは気が狂いそうになるほど腹立つので。
- 兄が超名門Pennsylvania大学(≠Penn State)でラクロスをプレーしていた関係でPhiladelphiaの街にもちょこちょこ来ていたとのことで所縁はある。
馴染めるかどうかは知らないが、馴染んでください。
- 個人的にはスケールを小さくしたLeSean "Shady" McCoyにしか見えなくなっている。
McCoyほどデカいランは望めなろうが、あいつの影をShipley君に見ることにする。
まずはパスレシーブとSTでしっかり結果を残せるよう頑張ってください。