まだミニキャンプを控えているというのに何もニュースがなくなった。
Parker引退で枠が空いたWRにトライアウターだったJohn Rossを補強したぐらい。これとて1行で終わってしまう話である。
ということでドラフティ紹介4人目です。
紹介
EDGE Jalyx Hunt(Houston Christian)
ドラフト3巡全体94位で指名された素材型のEDGE。
The Hunt is on@DietzandWatson | #FlyEaglesFly pic.twitter.com/S4Q5ZRF6bk
— Philadelphia Eagles (@Eagles) 2024年4月27日
身長は6'3 3/4"(192cm)、体重は252lbs(114kg)というサイズ。
過去のこのポジションの先達たちと比べると、"細い"ということになるんだろうが、これは我らが大エースのJosh Sweatさんより1インチ(2.5cm)身長が低いだけでほぼ同じ体重なので、まあそれほど小さいという印象はない。
ほぼJosh Sweat。
ちょっと小さくてほんのちょっとだけ遅いJosh Sweatである。
RASは以下。かなり優秀。
Jalyx Hunt was drafted in round 3 pick 94 in the 2024 draft class. He scored a 9.22 #RAS out of a possible 10.00. This ranked 141 out of 1798 DE from 1987 to 2024. https://t.co/r7ZZttioWa pic.twitter.com/q9Syy4u36w
— Kent Lee Platte (@MathBomb) 2024年4月27日
実績
Houston Christian大(旧名Houston Baptist大)というのは、今後はHCUと略していくが、FCS所属の2013年にできた新興プログラム。
過去にはBailey Zappe(NE)という名QBを輩出はしているが、彼は最終年をWestern Kentuckyにトランスファーしてのプロ入り(4巡)だったため、"Houston Christian"の名がドラフト会場で読み上げられたのはHuntの時が初めて。
その他、UDFAあがりでは現JAXのLB Caleb Johnsonという選手がいるそうです。
要はそれぐらいのスモールスクール出身であるということさえご認識いただければ。
カレッジ時代の成績は以下の通り。
2023:10試合(全先発) 46TKLS 9.0TFL 6.5SACK 2FF 3PD 1INT(1 Pick-6)
通算:38試合(22先発)162 TKLS 20.5TFL 13.5SACK 5FF 6PD 1INT
後述する理由により、2022・2023の最後の2年間で13.5のすべてのサックを稼いでいる。
この生産性はお見事。
物語
Florida生まれ。
Ole Missでもプレーした父のもとに生まれたJalyx少年(見慣れないこのJalyx(ジェイリックス)というファーストネームは、母が好きな香水に由来するものだそうなので、今でもそういう言い方をするのかはわからないが、いわゆるキラキラネーム)は、幼少期からフットボールと陸上競技に親しむ。ついでにサックスもイケる。
特に陸上競技での活躍は目覚ましく、10歳で参加した全米体育協会のジュニアオリンピックでは走り幅跳びで1位、砲丸投げで3位、400m走で4位、走り高跳びで7位という好記録を残している。
12歳の時にも全米陸上競技連盟のジュニアオリンピックで高跳びの銀メダルを獲得。
そんなアスリートだった彼だが、家族が頻繁に引っ越したことなどもあって本格的にはプレーできていなかったフットボールに取り組む環境がいよいよ整ったのは高校2年次。
当時はめちゃくちゃ小さかった(5'7" 170lbsなので170cm 77kg)こともあってDBやWRをプレー。
さらに股関節のケガなんかもあって出場機会はあまりなく。
ようやくシニアイヤーにキャプテンとなり先発に定着。
だがWRとしてはあまり目立った成績を残せなかったこともあり、カレッジからのオファーはバスケットボールと陸上競技に関するものばかり。
シニアイヤー以外目立った成績もない0-starであったことで全米的には全く無名の存在。
ということで各地のリクルートキャンプという青田刈り会場に次々詣でることで知名度獲得のための地道な活動を開始。
その数は2ケタに上り、フロリダ州オーランドを出発して北はイリノイ州シカゴまでの全開催地に出没しては名を売る活動に励んだのだとか。
まったく若さとはなんと素晴らしいことか。
その甲斐あっていよいよフットボールでのオファーがやってきたが、結局Div.3から1校、Div.2から1校、そしてようやく来た唯一のDiv.1からのオファーがアイビーリーグの超名門 Cornell大。
その他、FBSからもMarshallとSMUからオファーはあったようだがこちらは奨学金がないかしょぼいかというものだったようで、結局フルライド(大学にかかるすべての費用をカバーする奨学金で、授業料、学費、寮費、ばかにならない書籍代、食費、場合によっては生活費なんかも含まれる)の奨学金と、そのすぐれた教育の質を提示してきたCornell大を選択。
ちなみに、世界大学ランキング20位のCornell大には、まっすぐ入学すると学費(書籍代やら生活費はのぞく)だけで年間1千万円強とかそれぐらいかかるらしいです。
そりゃこっち選ぶ。
Cornell大からのオファーは当時ちょこちょこプレーしていたSとしてのもの。
6'2" 195lbs(188cm 88kg)のデカSとして入学後、パンデミックでキャンセルになった2020シーズンを含む3年間をCornellでプレー。
そして2021シーズンも1試合しか先発にはなれず、このシーズンを最後にトランスファーポータル入り。
実働2シーズンで目立った成績を残せていない粗めの素材に対しては他校も冷ややかに見ていたのか、FCSのHouston Christianからのオファーが精一杯。
これを受け入れてHCU入り。
そして当地のコーチは見る目があったのか、2022シーズン6月の転校から間もなく、Jalyx君はHybrid OLBのポジションにコンバートされ、以降パスカバーもちゃんとできるスピード系EDGEとして活躍。
とうとう2023シーズン後にはSenior Bowlに招待されるまでになる。
ということで、彼のスタッツが2022シーズン以降しか目立ったものがないというのも、彼がEDGEを始めたのがこの時期だから、という理由によるものでした。
使われ方と特徴
HCUでの使われ方
- 結構頻繁にドロップさせられている。
ほんの最近までSをやっていたという出自はもちろんあるのだろうが、パスラッシュ率73%というのはEDGEポジションの選手としては異例に低い数字と言っていい。
パスプレーのうちの4分の1強でパスカバーにドロップしていたということになるが、例えばこのドラフトにおけるトップEDGEであるLaiatu Latu君(UCLAから全体15位でIND行き)なんかは93.5%でパスラッシュをかけているのでこの数字と比べるとJalyx君のカバレッジ率の高さがよくわかろうというもの。
彼の数字と比較できそうなのは、Alabamaから全体17位でMINに行ったDallas Turner(76%)ぐらいである。
- そのドロップも、ディスガイズ的にEDGEにアラインしてから、という一般的なものだけでなく、最初からSlotの前についていたところからそのままLB的にパスカバーに下がるものも結構あって、ちゃんとLBしている。
- パスカバーは…正直スムーズ。
相手のレベルがアレなのでなんとも言いようがないところはあるが、PFFもパスカバーの分野で85.2というしっかりした高評価を下している。
11回のターゲットで8回パスを通されたが2PBUと1INTで被レーティング54.0というもの。
これだけ見たらなかなか。
だがどのようにこの数字が残されたかを判断できるほどの映像が出回っていない。
悲しい。
- パスラッシュは、速いが粗削り。
そりゃ経験が2年しかないんだ。仕方なかろう。
むしろたった2年のEDGE経験でここまでこれたことが十分いかれている。
出来ること
- スピードを強調したパスラッシュ。
ハマれば、という条件付きにはなるが、タテのスピードは一級品だし手もたまにはきれいに切れたりする。
- Sという経験を活かしたパスカバーの嗅覚。
プロのSlotをストップできる程度の切れ味があるとは全く思えないが、このリーチの長さがあるのである程度はカバーできよう。
できないこと足りないこと
- 経験が少なくとも身体能力だけで何とかなったのは相手のレベルが低かったから。
- 具体的なところを。
まずパスラッシュのスタートが遅い。
Jalyx君の場合、棒立ちからパスラッシュを開始するため、1歩目を踏み出すまでに余計な身体を沈めて力を溜める動作が発生する。
経験を積んだEDGEならそんなことは意識せずとも出来ているはずで、映像がなく恐縮だが、2024ドラフトで最も完成されていたパスラッシャーであるLaiatu Latu君(UCLAから全体15位でIND行き)は、力を溜めた状態でボールが動くのを待てているため、スタートが極めてスムーズ。
つまり身体能力云々ではなく技術がないことで余分な工程が1つ入るため、スタートが遅くなっている。
技術の問題。
(ただ、うれしいことに、PHI公式が流している練習風景の映像は、2023シーズンの映像よりこの点が改善していた気がする。あとはこれを試合でちゃんと実践する、という高すぎる壁を超えられるかどうか)
- 姿勢が高い。
重心の位置がどうとかそういう難しい話ではなくて、単純に胸をがら空きにしてOLにかかっていってしまうため、彼らからしたら攻撃できる胸の的が大きすぎる状態。
これがあるのでパスラッシュでも減速されられるシーンを頻繁に見るし、ランストップはもっと壊滅的な状況になっている。
これでは一流相手だと話になるまい。
上記のスタートの分野と合わせて技術不足の範疇。
がんばってプロの技を、というかEDGEならだれでも身に着けているはずの技を早く習得してください。
- 足捌きが悪い。
パスラッシュのテクニックを仕掛けるとき、地味に重要なのがどの方向に対して仕掛けているか、というところ。
これがJalyx君はまっすぐ奥の方向しか指せていない。
映像がなく、そして何度も名前を出して恐縮だが、2024ドラフトで最も完成されていたパスラッシャーであるLaiatu Latu君は、これが綺麗にQBの方向を腰と爪先が指した状態でOTに仕掛けられていた。
この差は天と地ほど大きい。
これも技術の問題。
- 足捌きと関連して、ついでに身体の捌き方も悪い。
身体捌き、なんて日本語があるかわからないがそういってみた。
簡単に言うと、現地でよく"Bend"と表現されているアレである。
特にEDGEラッシャーにおいて、OTと勝負しながらQBにプレッシャーをかけるには、OTに身体を預けながらぎりぎりまで身体を傾けてOTの外を効率よく回ってくる動きが必要になってくる。
それが全然できていない。
参考までに、世界最高の頂に立つ選手であればどうなっているのかをご覧ください。
もちろんモデルはMyles Garrettさん(CLE)です。
はい。意味が分かりませんね。
でもこれが出来なくちゃいけないのです。
現状のJalyx君の映像や写真からそれっぽいものを引っ張ってきたのが以下である。
なんともこじんまりしていらっしゃる。
全く同じ比較ができるシチュエーションでは全然ないが、やはり上のMyles Garrettさんのものとは全然違う。
このあたり、これも技術の問題だろうて、一刻も早い改善を願う。
評価と期待
ドラフト時の専門家(Dane Bruglerさん)の評価
いいところ
-
デカさと運動能力の幸せな出会い
- Cornell大に入ったときの小ささを考えるとここまでデカくなれるほどの努力がちゃんとできるし、あと10kgぐらいはデカくなれる余地がある
- バーストと加速が素晴らしい(比較対象はBrian burns)
- 身体の柔らかさが秀でているため沈む動きなんかが滑らかでポケットを縮める動きにつながっている
- スタンツのときの手さばきが流暢
- DBとしての経験があるためランプレーでのキーを素早く認識できる
- ランディフェンスではバックサイドから追いかけるスピードが素晴らしく速いため守備範囲が広い
- 泥臭いバックグラウンドがあるためいま必要なことを学びとる能力が高い
- 過去2シーズンでTDを挙げている(2022シーズンはScoop-6を1つ記録)
- パントブロックの経験があるなど、STとしても有能
- ポジティブなロッカールームガイ
伸びしろ
- EDGEとしての経験不足
- 今は運動能力だけでプレーしている
- パスラッシュの動きはまだまだ粗い
- 姿勢が高いため、スピードをパワーに上手く変換できるようなケツの動きを覚える必要がある
- ランに対しては強くないのでその長い腕を使う方法を覚える必要がある
- ブロッカーに絡まれるとそれを外すのに苦労する場面が結構ある
- (経験不足からか)見た景色に関する情報処理が若干遅れるのか次の動きまで一拍かかる場面がある
- タックラーとしては情熱が先走っているタイプなので技術的に改善の余地がある
- 試合中に消える時間帯が長い
- FCSレベルの相手としか手合わせしたことがない
個人的な期待
- 自分でも読み返して嫌になるほど、"できないこと"をつらつら書いてきたのだが、ここでふと我に返っていただきたい。
彼の一番すごいところは、ここまで技術的に未熟なところがたんまりありながら、パスが来ると分かっているシチュエーションでのPass Rush Win Rateで27.8%という勝率を残しているところである。
素材の時点でこれだけ出来る。
出来ない割に出来すぎる。
ちゃんと磨けばいったいどこに天井はあるのだろうか。
そう思わせれくれるロマンを秘めすぎている。
- 素材がいいのはわかった。
あとは育つかどうか。
スモールスクール出身のEDGEが活躍するために必須なのが運動能力だが、それは充分に備えているのであとは技術。
相当に時間がかかるはずだし、3巡と言えば、またしてもではあるが悪夢の2020ドラフトでのDavion Taylor(超粗削りのまま指名され、3年目のファイナルカットで放流。PHIのPSにもいたが、その後CHI・ARIと渡り歩き、現在無職)になるのが最悪のケース。
本当にあれぐらい、少なくとも丸1年は全く使い物にならないところまでは腹を括っておきます。
- Davionというトラウマとは違ってSenior Bowlでの手合わせでそれなりのものを見せてくれているのでまだ安心感はある。
だがあの程度じゃやっぱり通用しないはず。
調べるとOLB CoachはJeremiah Washburnから変わっていない。
彼はPatrick JohnsonとかNolan Smithについても"育てた"という印象はないのでこのあたりがちょっと不安。
- 公式が流しているルーキーたちの映像を見ても、寡黙なQuinyon Mitchellとか社交的なんだろうがまだ田舎者感が抜けないCooper DeJeanを押さえて段違いの明るさを放っているのがJalyx君。
めちゃくちゃいいキャラクターであることがわかりつつあり、徐々に現地ファンの心も掴んできている。
すんごいいいやつ。
いいやつだけに、時間がかかるのは承知の上だがそれよりも失敗してほしくないという思いが強い。
勝負はSweatとBGがいなくなる(であろう)2025シーズン以降。
この1年をかけて少しでも輝きを見せてくれば充分です。
バカほど高い天井を夢見ているが、そのためにもちゃんと練習を積んでいかねばならない。
そういう意味でも敵はケガ。
思い返すとDavionの真の失敗の要因はケガの多さだった気がしなくもない。
好きになった。がんばってください。