試合全体の振り返りは一旦措く。
問題なのはPHIボールで攻め込んだ試合最終盤のSirianniの決断。
この部分だけのお話。
あの敗戦を全部この決断のせいにするつもりはない。
ここに至ったプロセスに最大の問題があることは間違いないのだが、この決断はSirianniのPHIにおける賞味期限に関して著しく棄損した可能性があるのでこの件について言及しないわけにはいかない。
まずはネタバレから。
結果:PHI 21-22 ATL
負け。
問題のシーン
PHI 18-15 ATL でPHIが3点リード。
試合残り時間1:42。先方はタイムアウトなし。
ボールはATL陣10yd地点から、4th&3。
アナリティクス的推奨事項:"断固としてGo"
Sirianniの決断:FG
Elliottが28ydのFGを沈めて3点リードは6点リードに。
そしてタッチバック後、1:39を残し、タイムアウトがない状態でATLボール。
で、結果は上記の通り。
Cousinsはわずか65秒で70ydを完走。あっさり逆転してそのまま試合終了。
アナリティクスというのは妄言でも宗教でもなんでもない。
過去数十年(厳密には知らないが、直近20年は網羅されている)に及ぶ人類の成功と失敗に関する研究結果である。
集合知なのである。
そしてそのアナリティクスの石に刻まれた十の戒めのうちの一つが、"試合終了まで2min以内、3点リードの場面でFGを狙って6点差をつけにいく行為はリストカットに等しい"というもの。
ここからは答えのない話。
OCの気持ちになって考えていただきたい。
シナリオA:3点ビハインド。残り時間1:39。自陣10yd。
シナリオB:6点ビハインド。残り時間1:39。自陣30yd。
さて、あなたが死に物狂いになるのはどちらか。
4th DownまでOffenseに使って問題ない、と割り切って1st Downからより積極的に攻められるのはどちらか。
答えなんかない。
答えなんかないんだが、アナリティクスの過去長い時間の研究結果によると、"世のOCは3点ビハインドの場面においてはまずFGを狙いにいく"という結論が出ているのだそう。
これには、近年飛躍的に向上したKの飛距離問題も絡む。
ATLの例でいうと、そいつはYounghoe Koo。
決して大砲とは言えないKだ(と認識している)が、彼の50yd以上のアテンプトに対する成功率は、キャリアで8割近い。
2023シーズンに決めたFGの最長(=キャリア最長)は54ydsである。
つまり、仮にSnapを8ydだと思うと、"敵陣36ydまで進めばOK"。
というのがシナリオAにおけるOCの実質のゴールとなる。
しかも、敵陣36ydなんて守る側からするとRed Zoneに比べると守りにくいことこの上ない。
36+10の46ydに11人と、10+10の20ydに11人。このDefense側の人口密度を考えるとれほど明らかなことはない。
この隠れた要素を考慮すると、先ほどのシナリオ、正しくはこうなる。
シナリオA:3点ビハインド。残り時間1:39。自陣10yd。進むべき距離:54yd。最後まで人はスカスカ。
シナリオB:6点ビハインド。残り時間1:39。自陣30yd。進むべき距離:70yd。最後は人がみっちり。
ね、シナリオAの簡単さよ。
プロならパス3~4回成功で充分到達する距離だし、こう考えるとたとえタイムアウトがなくても時間もたっぷりある。
こりゃコンサバにもなる。
そしてこれが、"3点差なら同点で凌げる可能性が高い"というアナリティクス的辻褄。
「え?アナリティクスは"コンサバ"みたいな心理的な話にまで言及するの?それって立派なオカルトなのでは?」
というツッコミは控えていただきたい。
まあわからんでもない。
わからんでもないが、順番が違う。
「相手OCがコンサバになる」というのは、試合終盤の、FG成功なら6点差・ギャンブルが成功してTDまで行ければ2ポゼッション差で実質勝ち・ギャンブルが失敗しても3点差、という場面において、統計上"ギャンブルを敢行した場合の方が、FGを選択して6点差にするよりも勝率が上がる"という現象を説明するための考察でしかない。
イエスキリストが磔刑後3日目に復活し天に昇った、ということを説明しようとして、イエスキリストは神と精霊と一体になったのだ、と言っているのと近い。
いや、絶対に近くない。
例が下手すぎてますます胡散臭くなったことについて自覚があることだけは申し添えておきます。
話を戻すと、このシチュエーションでのモデルの1つが以下。
---> ATL (15) @ PHI (18) <---
— 4th down decision bot (@ben_bot_baldwin) 2024年9月17日
PHI has 4th & 3 at the ATL 10, Q4 01:39
Recommendation (STRONG): 👉 Go for it (+3.1 WP)
Actual play: 👟🏈 J.Elliott 28 yard field goal is GOOD, Center-R.Lovato, Holder-B.Mann. pic.twitter.com/GmDXxC4WGL
これを見ると、"GO"を選択した場合、失敗してもまだ勝率は85%となる。
コンサバなOCのおかげで同点にしかならず、勝敗予想が有利と出ているチームなのであればOTまで行っても勝つ確率はまだ十分に高い、ということであろう。
先に言及してしまって恐縮だが、上記のモデルが含む要素は、
・Down & Distance
・フィールドポジション
・屋根の有無
ーー
・試合残り時間
・点差
・タイムアウトの残数
・ホーム/アウェイ
ーー
(以下、スポーツベッティングにおける)
・人気/不人気
・over/under
・総得点
となっており、区切った1つ目のセクションで前述した人口密度も考慮したOffenseの1st Down獲得率/FG成功率等を算出、2つ目のセクションはその後の試合展開(勝率)を算出し、最後のセクションの要素でボールを持っているチームと相手チームとの相対的な力関係をモデルに理解させ、最終的なOutputを出しているのだということのよう。
集計期間は直近20年間だそうです。
そのモデルが"Go"だと言っていたのがあのシーンであり、上に引用したツイートである。
このシチュエーションでSirianniがとるべきだったのは、"Go"という判断。
もっと言うならば、この直近のプレーの前にでもOC Kellen Mooreに対して"4th Downまでいっていい"ということを伝えておくこと。
でなければあの3rd Downで結果的に落球となって戦犯扱いされたSaquonへのパスというコールの意味が分からない。
その時から"3rd Downで決められなかったらFG"という指示が下りていたとしか思えない。
3rd Downから2回続けてSaquonに持たせるあるいはTush Pushで試合は問題なく幕を下ろしていたはず。
戦後の振り返り
アホすぎて付き合いたくもないのだが、この決断についてSirianniは現地水曜日の会見でこう述べている。
Sirianni on what analytics chart suggested for the 4th down call :
— Tim McManus (@Tim_McManus) 2024年9月18日
"My chart, what I say to do, is to kick it... There's about 20 websites that you can punch in a number...y'all can see that. But I base it off of what my studies have been and my conviction of my studies."
平たく言うとこうである。
"俺調べではあの決断が正解"とのこと。
この後、"何度でも同じ選択(FG)をする"とも言っていた。
なんだ"my studies"って。
勝てると思ってるのか歴史の積み重ねに。
これは流行語大賞待ったなし。
PHIでの賞味期限
なぜこれがこんなにも彼の評判を落とすか。
アホだからか。
それも1つの正解。
"my studies"とか言い出すやつはアホに決まっている。
これだけでないのは、実はアナリティクス界隈からその先進的取り組みを非常に高く評価され続けている人が上司だから。
Jeffrey Lurieオーナーその人である。
ただでさえ昨シーズン終了後に涼しくなっていたその首。
つなぎとめるのはますます難しくなったようですね。