鷲の巣

NFL フィラデルフィア・イーグルス(Philadelphia EAGLES)の応援ブログ

敵情視察と新キックオフ

Hurtsに甘くなるのをやめたい。

 

特にニュースっぽいものはないんですが、こういう時に更新するのもよかろうということで備忘も兼ねて書いていきます。

 

 

 

敵情視察

宝の持ち腐れ疑惑

Week2の対戦相手であるATLの初戦をみた。

こういうところで義理を尽くしておくのは大事なのである。

 

そして観た結果。

 

ありゃどういうつもりでCousinsを獲ったのかね。というかよほど回復具合が良くないのか。

 

Kirk Cousinsといえば、かつてあの天才 Kyle Shanahanが惚れ込んだ男。

 

2012ドラフトでShanahan父子がどうしても欲しかったのは父:Russell Wilson、子:Kirk Cousinsであったという。

当時のWASのチーム(オーナー)事情的に、1巡は別のQB(Robert Griffin III)を指名せざるを得なかったが、RG3(間違えた1巡のQB)のパス能力に一切信用を置いていなかった現場はもう1人のQBの指名を当初から決定していたと。

 

HCたる父の意向が尊重されて3巡でRussを狙うも(誰の判断かわからないが、Russが残っている状態でOGを指名して)獲れず、結果的には4巡102位でのCousins獲得となった。

 

そしてそのCousins指名に一番喜んだのがKyle

結局WASでのShanahan体制は2013シーズンに3勝13敗という結果に終わったことで瓦解。

KyleはCLEのOC職に引き抜かれたためこのコンビは2年しか続かなかったが、当初の懸念通りRG3がたった1年しか輝かなかったこともあって、残されたCousinsShanahanのエッセンスのままにWASのフランチャイズを背負って成長。

見事4回のプロボウル選出に輝く一流QBとなった。

 

Shanahanが惚れ込んだだけあり、Cousinsの強みはアンダーセンターからのプレーアクション。

MINでの最後の2年間は幸せだっただろう。

HCはCousinsの良さを熟知していたはずの、(Kyleの弟弟子でありながら)Mike Shanahanの筆頭弟子であるSean McVayに仕えたKevin O'Connellがだったのだから。

 

さすがはO'Connellさん。

アキレス腱断裂で8試合の出場に終わった2023シーズンも、Cousinsのプレーアクション比率は31.1%でなんとリーグ1位である。

 

パスの難易度から想定される期待値(CPOE)を4.6%も上回る(Dakに次ぐリーグ2位)70%近い成功率を残して、18TD5INTでレーティングは103.8である。

遣い手さえ取扱説明書をしっかり読んでいたら、Cousinsという男は一流なのである。

 

それがどうだ。

 

ATLのWeek1 PIT戦。

Cousinsのパスプレーにおけるアンダーセンター率は衝撃の0%(厳密には1回あったが、スパイクしただけなのでカウントしないことにする)。

そして。

 

そんなことよりも。

 

初めて見たのだが、なんとプレーアクション比率も0%である。

 

信じられないことに、1試合を通して、ただの、1回も、プレーアクションからのパスがなかったのである。

 

 

にわかには信じがたいのだが、これが事実。

これが2024ATL。

 

そしてこの項の冒頭に帰る。

 

ATLさんよ。

一体全体どういうつもりでCousinsを獲ったのかね。

 

というのはさすがに言い過ぎだと思い、「疑惑」と題したのは、やはりアキレス腱断裂明けなもんで動きが大きくなるアンダーセンターとかプレーアクションは使えなかったのではないかという推測。

 

ちなみにだが、今週のCousinsの練習動画がちょろっと流れていたが、やっぱり動きは万全のそれとはほど遠い印象。

 

遅いはず。たぶん遅い。

負傷前の万全Cousinsとの比較ができているわけではないのでこれだけでは判断できないが、やっぱり御年36歳でアキレス腱を治すというのは難しいのか。

 

そういえばWeek1のAaron Rodgersも、パス自体はやはり達人のそれだったが、ロールアウトの動きかプレッシャーから逃げる動きかで"めちゃくちゃ遅くなっとる"と驚いたプレーがあった。

そういうことなら、あの衝撃のPenix指名にも納得がいくというもの。

 

そうじゃないんだとしたら意味が分からない。

 

 

だが、プレーアクションがないからといってプレッシャーにまみれているわけでもなく、INTにまみれたわけでもない(両方2回ずつなのでHurtsと同じ。むしろ2ファンブルがないだけCousinsの方がマシ)。

 

現状でいうと、ATLのOffenseもその辺の事情(Cousinsのモビリティが著しく低下している)を踏まえているのか、プレーの展開がやたら早い。

ピストルフォーメーションでCousinsの視界を広げておいて、広く展開させたWRにさっさと投げてしまうというのが基本設計。

この辺りがプレッシャー率を致命的なものにさせていない(とはいえWeek1は39.3%というリーグ7位の高さ)理由だと思われる。

それが証拠にDeep(20yd以上)のパスを投げた回数は"0"。

 

この情報からだと素人は1HgihとかCover.2とかを敷きたくなるものだがさてFangioさんはいかがされるのでしょうか。

 

さすがに1巡で整備しまくっただけのことはあり、受け手のタマは揃っている(TE Kyle Pitts・WR Drake London・RB Bijan Robinson)。

 

伝え聞くところによるとどうやらA.J. Brown様のハムストリングがよくないらしい。

ここは無理させるところではないと思うと欠場も十分あり得る。

なぜか同時にJohnny Wilsonも傷んだという話。

 

火力が下がるのは必定で、DefenseにWeek1ほどビッグプレーを許している余裕はないはず。

 

Vic Fangioさんが何を仕込んでくるのか楽しみでならない。

 

 

 

かつて欲しかった選手たち

ATLの試合を見ていると気づくのが、そのOLの弱さ。

特にIOL。

これはPITの強力DLとのあわせ技なのだろうが、特に中央からの漏れ方がひどかった。

いやあ、そのDLの出足を止めるためにもプレーアクションは必要なんだろうと思いますけどね。

 

そしてそのIOLの中心が、C Drew Dalman

と、LG Matthew Bergeron

いやいや。両方欲しかったOLじゃないか。

 

前者は2021ドラフトでKelceの後釜として、後者は2023ドラフトで純粋にOTの能力として、欲しかった選手じゃないか。

キミたちここにいたのかね。

 

しかしやはりDalmanはやっぱりあの時見込んだ通りにやっぱり速いしZone Blockingが非常にいい。

Jordan Davisさんはがんばって走るのだよ。

 

ただプロテクションでのブルラッシュへの弱さはそれを補って余りある(間違った日本語)レベルだが。

 

Jordan Davisさんにおかれては、特になにも考えずにブルラッシュに徹していただければOKでしょう。

前述したとおり先方のパスプレーは展開が早いので、サックとなると難しいだろうがポケットを潰すという仕事はより重要になる。しっかり頼むよ。

 

Jalen Carterさんにおかれては、もうちょっと期待したいところ。

Week1も悪くなかったけどね、もうちょっとだよ。

 

 

 

リーグのトレンド

Dynamic Kickoffというやつにルールが変わった。

2023シーズンのNFLでは過去最低のリターン率となったこと、SBでのKickoffが全てタッチバックになったことで、"Kickoffは死んだ"とまで言われたものを、なんとか魅力的なものにしつつ、かつKickoffを殺すまでに至った現状のルール改正の意図していた"トップスピード同士の選手のコンタクトによる脳震盪リスク"を再び持ち上げるようなことは許されないという制約を弥縫してできたのが、新興リーグであるXFL(現UFL)でのKickoffルールを参照した以下の形。

 

新ルール

(以下、Kick側をAチーム・Return側をBチームとします)

 

アライメント

  • AチームのKickoffはA陣35yd地点から(Safety後のKickはA陣20yd地点から。いずれも変更なし)
  • Kickerを除くKickoffチームの10名はB陣40yd Lineに並ぶ(彼らはボールが地面につくか、リターナーがキャッチするまで動いてはいけない。聞いてるのかKelee Ringo
  • リターン側のBチームのうち、9名は"Setup Zone"と呼ばれる、B陣35-30ydのエリアに並ぶ
    • 最低でも7名はB陣35ydのLineに足をかける(横はどこでも結構)
    • 第1線の7名以外の2名は、"Setup Zone"のなかでハッシュマークの外側にいる必要
    • こちらもボールが地面につくか、リターナーがキャッチするまで動いてはいけないのは同様
  • 最大2名のリターナーは、"Landing Zone"と呼ばれるB陣20-0ydのエリア内にセットし、この2名は自由に動き回ることが認められる
    (KickerはKickと同時に走り出してよいが、ボールが地面につくか、リターンマンがキャッチするまでに50ydを越えてはいけない)

 

Landing Zone

  • "Landing Zone"は、前述の通りB陣20-0ydのエリア。
  • "Landing Zone"に届かないところでボールが地面についたKickはすべて"アウトオブバウンズ"と同じ扱いをされ、その時点でプレー修了。BチームはB陣40yd地点から攻撃開始。(従来通りのアウトオブバウンズも変更なし)
  • "Landing Zone"に落ちたボールはリターンされなければならない
  • "Landing Zone"に落ちてから転がってEnd Zoneに入ったボールは、リターンするか、ダウンしても良い。ダウンした場合、BチームはB陣20yd地点から攻撃開始。
    ("Landing Zone"に落ちてから転がってEnd Zoneを割った場合も同様)
  • End Zoneに直接飛んだボールは、リターンしても良いしダウンしても良い。ダウンした場合、BチームはB陣30yd地点から攻撃開始。
  • End Zoneを直接飛び越えた場合も同様にBチームはB陣30yd地点から攻撃開始。

 

その他

  • 風等が原因でKickoffのティーからボールが2回倒れた場合、KickerはKicking Stickを使用可能。(これまではほかの選手がボールを抑えていたが、あの景色も消滅)
  • ペナルティによりKickoffの地点が変更になっても、"Setup Zone"と"Landing Zone"の位置は動かない。Kickoff側のチームの10名の位置も変わらない。
    動くのはKとKickoff地点だけ。
    これはSafety後のKickoff(20yd地点から)でも同様。何があっても"Setup Zone"と"Landing Zone"は動かない。
  • オンサイドキックは従来のルールから変更なし
    • ただし、使えるのは4Q以降の追いかけているチームのみ。事前に審判に申告要
    • とはいえ、オンサイドキックと見せかけて奥に蹴りこむというアレが頻発すると、4Qには新ルールの意味が半減するため、人こそいないが"Setup Zone"をボールが誰にも触られずに越えた(B陣30yd地点より奥まで蹴りこまれた)場合、Kicking側のAチームの反則となりリターン側BチームはA陣20yd地点という敵陣奥深くから攻撃開始

 

長い。

なんで審判部のサイトなんか見に行ってるんだ。疲れた。

 

上記を非常に簡潔にまとめたものがこちら(PIT公式YouTube)です。

ありがとうPITさん。

 

 

 

狙いと途中経過

このルール導入の狙いは、Kick側はタッチバックをおいしくないと思わせ、リターン側にはリターンがおいしいと思わせること。

20年前には90%を超えていたリターン率が、史上最も低いリターン率に終わった2023シーズンの数字は"22%"。これを持ち上げること。

 

プレシーズンでは効果が発揮されたように見えた。

しかしそこはやはりプレシーズン。

結果なんてどうでもよくて選手の見極めという要素が強いと思うと、カバーチーム側の選手見極めのためにあえてリターンさせていたんでしょうな。

 

 

いざ開幕してみると、Week1のタッチバック率は63.5%と、2023シーズン全体の73%という数字からはたったの10ポイント弱しか改善しなかったということです。
(リターン率とタッチバック率の違いについては触れないでください。普通足したら100%になるはずなのに…よくわからんのです)

 

なお、元からリターンさせるつもりがなかったであろう、明確にEnd Zoneにしか蹴りこまないという選択をしたのが6チーム。

 

もちろんPHIはそのなかに入っています。そしてその回数も最多タイの6回を数える。
現状のルールでは余計なリスクを背おうより諦めて30ydからのDefenseを選択しよう、ということでしょうか。

ご自身は2回リターンしてそれぞれ16yd・23ydからのOffenseだったのに、である

 

ちなみにだが、前述のXFLではタッチバックの場合の攻撃開始地点を35ydとしており、そうなのであれば、ということでKickoff側もコントロールしたキックをするインセンティブが働いた結果、リターン率は90%を超えているという。

 

30ydと35ydは違いますよねやっぱり。

今後ルールに調整が入るとしたらこの辺りでしょうかね。

 

 

 

その中で見えてきた傾向

もちろんPHIほど面白くないことしか考えないチームばかりではない。

攻守それぞれに考えられたものも出てきております。

 

まずはKick側。

  • この形式のKickoffで重要な要素が、"リターン側も動けない"ということと"ハングタイムがいらない"ということ。
    ボールがどんな軌道を描こうが、地面についたタイミングからしかカバーチームは始動できないと思うと、カバーチームのために時間を稼いでやる必要はない。

 

  • 前者のルールを活かして、"左右への蹴り分け"という戦術をとったのがWil LutzのDENと、Jason SandersのMIAとか。
    この辺りは左右の蹴り分けに対しても、リターン側はボールが落ちてからしかアジャストできないことを利用したカバーの設計が巧みにハマったことで、リターンを30yd地点までに押しとどめることに成功している。

 

  • 後者の"ハングタイムがいらない"ことを強調したのは、MNFでのGreg Zuerleinを抱えるNYJ。
    いわゆるナックルボールのようなボールを蹴ることで、リターナーがリアクション出来ないほど速くLanding Zoneにボールを落としてその後のバウンドは神に任せてしまおう、というのがこれ。
    Zuerleinは見事にLanding ZoneOut of Boundsが成功して20ydに押し込むことに成功している。

 

  • とはいえ、この2つのどっちかを狙ったものの失敗してしまい、Landing Zoneの手前に落ちてしまう(40ydからのDefense)例も多く見られた。
    現時点ではどっちにしても道半ばという感じか。

    ちなみに、にっくきDALのBrandon Aubreyはサッカー出身ということでナックルボールもお手の物なのだろう。
    2回もリターナーお手玉させるキックを蹴っている。
    もう少しEnd Zoneとのきわどいところでこれをやられだすと大問題になりかねない。参ったな。

 

  • カバレッジについては、LVがなにか革新的なことをやろうとしていた気配がある以外は特に目立ったものは出ていない様子。
    (なお、LVのものについてはアライメントを変則にすることに併せてスタンツ的な考え方でラッシュレーンをいろいろ動かしてはみるものの、結局上手くいっていなかった様子)

 

 

続いてリターン側。

  • こちらの基本線は、"目の前でブロックできる"というのが利点。
    もう長い距離を下がる必要がないかつ相手のスピードがゼロから始まるので、ブロックはしやすくなっているものと考えられる。
    そのうえで出てきているのが2点。

 

  • ブロッキングのバリエーション
    トラップブロックをどこに入れるか、どこにダブルチームかますか、というのが主な論点にはなる(あとはリターナーのカウンタームーブ)が、ブロッキングにバリエーションを持たせられるというのが利点。

    このルールで初のリターンTDを生み出したARIだが、当該プレーではダブルチームは作っていなかったが、リターンサイドにブロッカーを寄せることでデカいスペースを作って、結果的にそれがTDになっていた。

    その他、ビッグリターンを演出したCHIもダブルチームを効果的に使えていたようだし、KCあたりはトラップブロックでなにやら面白いことをしている。

    この辺りはKick側がどんなボールを蹴ってくれるかにも影響を受けそうなので、上手くアジャストを設計しておくことも重要な要素だと思われる。

    なお、31チームはリターンの際にその場からブロッキングを始めていたが、1チームだけが従来通り背中を向けて走ってから振り向いてブロックするという確実性に劣る手法を採用していたと。
    それがCAR。
    前時代的なのか革新的なのかわからないが、Week1でなんと10回もリターンをして平均26yd地点からのOffenseなのであまり革新的には見えない。

 

  • リターナーの素養
    このルールになったときから言われていることではあるが、やはりリターナーのポジションも変化したとのこと。
    かつてはDBやWRといったスピード豊かなタイプが広いスペースを存分にかき乱す、というのがトレンドであったはず。
    それが、Week1でリターンした選手のポジションはRBが最多、ついでWR。ここまでが圧倒的に多く、だいぶ減って(WRの5分の1弱)CBとなっていたとのこと。

    前述のブロッキングのところとも被るが、このルールにおいては密集をリターンすることが基本になること、ブロッキングを理解して走れることが重要な要素となってくるため、密集に強い本職のRB(およびWR)の起用が増えているという話。

    なのでKCのCarson SteeleとかNOのTaysom HillとかSFのKyle Juszcykあたりまでリターナーに入っていたというのはルール変更によりリターナーに求められる素養が変化したという証。

    PHIにおいてもリターンの2回はいずれもKenneth Gainwellだった。

 

以上、長々とKickingについてでした。

まだトレンドっぽいものが明確に見えているわけではないが、ナックルKickoffが定着するとリターン側にとっては少々面倒なことになりそうな予感。

 

それを追い求めるにしても現状の"短かったら40ydから"という罰が重すぎることと、"End Zoneに蹴りこんだら30ydから"という罰が軽すぎることが相俟って現状のルールではこれ以上Kickoff側がリスクを負うことはないんだろうな、という印象。

 

せめてタッチバックが35ydから、というXFL方式を忠実に採用するのであればもう少しマシにはなりそうですがね。

 

ルール改正も道半ばという感覚です。