禁止しろ禁止すんなといろいろ喧しいQB Sneakについてです。
きっかけ
時は2022シーズン序盤。口火を切ったのはもちろんあの男。Jason Kelce。
曰く、
Jason"試合が正念場でGoal前1ydから4th Downを迎えたとき、なんのプレーをする?正しい答えは1つだけだ"
Travis"ロールアウト…とか?"
Jason"QBスニークだよ!(成功率)92%だぞ!1yd獲るにはQBスニークしかない!"
とヒートアップ。
映像はこちら。(音量にはご注意ください)
あとあとになって、Jasonはこの92%という数字は、根拠のない単なる成功率の高さを強調するための数字だったことを認めているが、この動画によって現地PHIファンやライター連中のなかでは"92%"がミーム化。
そしてこの動画と時を同じくして、Sirianni & Steichenも積極的にQB Sneakを取り入れ始める。
最初からだった気もするし最初は違った気もする。
いつからこうなっていたかは記憶にないが、いつの間にか出来上がっていたのが異常なまでの密集隊形からHurtsが突入し、さらにGoedertやA.J.といったデカいBacksがHurtsを押し込む現在のPHIのQB Sneak。
通常のQB SneakだとQB個人が押し込むだけだが、PHIの場合は上述したとおりデカいBacksがHurtsを、もっというとHurtsのケツを押し込む動きも加わっているため、現地で"Tush Push"と呼ばれ始めたのはたぶんSB直前とかあのあたり。
Tushというのがケツの意味(「お尻」ではなく「ケツ」)ですので日本語にするとケツ押しとしか言いようがなく、あまりにも情感が伝わりづらいのでどこまで行ってもTush Pushとしか呼びようがない。
ただ、これは現地でも同様のようで、今シーズン開幕直前かその直後だったか、現地の名もなきファンの書き込みから始まった呼び名が"Brotherly Shove"。
ShoveはPushの類語なので於くが、Brotherlyの方。
Philadelphiaという街の名がそのギリシャ語の語源からして"City of Brotherly Love"という意味だということであいつら何でもかんでも"Brotherly"と付けたらいいと思っている節がある。
これもその一環。
特にPHI周辺では既に市民権を得ているBrotherly Shoveであるが、ある統計(どうでもいい場面で使っていたりするから数え方には若干誤差がある)では2022シーズン以降44回試行41回成功ということでその成功率は93%を数えているのが現状。
もう少し良くなる場合もあるが、概ねどの統計を取ってきても92%前後。
口から出まかせだったKelceの92%に収束しているというのが非常に興味深いところ。
論争
急にこのプレーを禁止すべきという論争が発生したのが、前述したTush Pushと呼ばれ始めたのと時を同じくしたSB直前。
禁止派最大の論客は殿堂入りライター・NBC SportsのPeter King氏。
氏の論によると、
"このプレーにはFootballの技術が関係ない。我々が見たいのは洗練されたFootballの技術だ。このプレーは単なるラグビーであり、こんなものが見たいわけではない。ただ、Eaglesを批判したいわけではない、ルールが認めるならやればいい。私が批判しているのは、このプレーを許容しているルールだ。"
とのこと。
この論に元ラガーマンであるMailataが”ラグビーとラガーマンに対して失礼だ”と強めに反応したのは言うまでもない。
技術あるいは芸もしくはアート
氏への反論は、すでにこれを取り入れた各チームがことごとく失敗していることでもう済んでいると思われる。
もちろんちゃんと成功しているチームもありますねCHIとか。
つまり、"簡単そうに見えて高等なテクニックが凝縮されたものでしたよ"ということなのだが、PHIの場合はいかに、というのが以下。
- まずCにKelce、LGにDickersonとLTにMailataを揃えます
というのは冗談だが、PHI Offenseのランゲームにおける最大の強みである左側のOLがこのプレーの肝。
すべてではないが、Brotherly ShoveのときのHurtsは、結果的にOffense左側のこのエリアに流れてきて最後のひと押しを稼ぐ場面がめちゃくちゃ多い。
体感8割ぐらい。
この3人が何をしているか、というところだが、とかくKelceに集中しがちな1テクの圧を、横方向からブチかましてLGをトップとした壁を再構築すること。
そして押し込む。
これができるのも、最初からOL間のスプリットを極限まで削ったタイトな隊形でのセットをしているから。
さながらスクラムのように。
直近のMIA戦でもあったので貼っておきます。
GIFなので見づらくて恐縮ですが、やはり左側。Mailataの動きが最後には効いているのがよくわかる。 - Hurtsと押し役
彼らも適当にやっているわけではないし、Hurtsの600ポンドスクワットが成功要因のすべてでもない。
Hurtsとその後ろの2人にとって一番大事なのは"ダウンしないこと"。
なので基本HurtsはKelceあるいはDickersonの上を進もうとする。
MIA戦でのGoedertの押し方はわかりやすかったが、押し役がHurtsに伝える力の方向も水平からやや上向き。
以上が肝。
本当はもうちょっとありそうな気もするが、たぶんこんな感じだと思います。
Defense側の誤解とあのチームの対策
何度も言うが、肝はDickersonとMailataなのである。
Defense側の誤解というのは、Kelceへの集中の仕方と、Mailataのところの空け方。
さきほどのMIAの例だと、アライメントは以下のようになっている。
結果的に、空けすぎたMailataの前のスペースで決着しているのでここを塞ぐのがおそらく近道。
再掲しておきます。
Kelceが重要でないと言いたいわけではない。
彼の貢献度も言うまでもなく非常に高いが、そこだけではありませんよ、という話です。
そしてこれまでのポイントを踏まえて、Defenseとして最高の準備をしているのがこのチームのこれ。
FRED WARNER OFF THE TOP ROPE!
— NFL (@NFL) 2023年10月24日
📺: #SFvsMIN on ESPN/ABC
📱: Stream on #NFLPlus https://t.co/riDUhbzXkK pic.twitter.com/FKWmNQ4XA1
Fred WarnerがPolamaluっぽいというのだけ見ていると片手落ちになります。
実は、DLのアライメントは以下の通りだった様子。
元よりGoal前専用の重いメンツで組んだ隊形なのでMIAの例と比較するのは間違っているが、参考程度に比べると、各ギャップにDLを配置しているのがよくわかる。
何度も上げて恐縮なMIAのほうは、55に隠れて見づらいがCのKelceの真ん前にも1人置いているのでこれだと中央に力が寄りすぎ、ということになるはず。
たぶんこのOLに広く圧をかける設計になっているSFのパターンのほうがBrotherly Shoveを止めやすくなっており、さらにKelceとDickersonの上を泳いでくるHurtsに対して空中からWarnerが飛んでくるという2段構えになっている。
うむ。
現状これが完璧な対策ではないでしょうか。
SFのDLC Kris Kocurekはやはり超有能。すごくほしい。
毎度のことながら見づらくて恐縮ですが中央からみるとこんな感じ。
SF戦でどうするか、というところは一切読めないが、2022シーズンには結構これの裏プレーも持っていたのでこのあたりを使っていけば何とかなるのではないかというのが読み。
というか、それを出すとしたらWAS戦のような気がしているが。
WAS戦やSF戦の話はさておき、どうやらBrotherly Shove、もっと温度感をなくすとRugby Sneakと呼ばれるこのプレーについてはこのオフに再び協議委員会で話し合われるのが濃厚だという風向き。
攻守双方が分かり切ったプレーであり最初から近いところで始めることもあって、言われているほど危険でもないはずで、このプレー起因のケガ人の例は聞かないがさてどうなることでしょうか。
禁止されるとしたらどういう理由がつけられるのでしょうか。
PHIファンとしては、もちろん禁止なんて断固拒否ですよこのやろう。
GO BIRDS!!