Offensive Line通称OLについて。Week6まででNFL最多の25サックを許した彼らの罪は重い、というのがPHIに対する評価。オフ時点で想定していたスターターのうち健在なのはC Jason Kelceのみという有り様。実際にとんでもなくWentzにプレッシャーがかかっているのも事実。いったい何が起こったのか、現状の収穫など。最終的に思ってたのと違う方面に力が入ったので試合のない週末にふさわしくだらだらと長くなります。
【2019season】
あの頃は幸せだった。
LT |
LG |
C |
RG |
RT |
Jason Peters |
Isaac Seumalo |
Jason Kelce |
Brandon Brooks |
Lane Johnson |
プロボウル9回(オールプロ6回)のLT、プロボウル3回(オールプロ3回)のC、プロボウル3回のRG、プロボウル3回(オールプロ3回)のRT。はっきり言って実績で言うとNFL最強だったのではないでしょうか。しかし高齢。2019年については平均年齢30歳超え。そしてそれに伴うケガの増加。ピータースは年に5・6試合休むことが恒常化していたし、ブルックスについても2018年プレーオフに断裂したアキレス腱の古傷あり。健康体ならDALのZack Martinといい勝負するぐらいNFLトップクラスのRGのはずが、やはり2019年も今度はシーズン最終盤に肩の脱臼でOUT。プレーオフSEA戦では全くランがでない要因に。
チームも高齢化対策として、2019年ドラフトにて1巡をトレードアップしてAndre Dillardを指名。「パスプロテクションはうまいけどノーパワー」と評されていた彼を、2019年限りで契約が切れるJason Petersの後継者として1年育てる計画を明確にしていた。
【2020season開幕前】
そして迎えた2020シーズン。想定していたスターターは以下の通り。
LT |
LG |
C |
RG |
RT |
Andre Dillard |
Isaac Seumalo |
Jason Kelce |
Brandon Brooks |
Lane Johnson |
それ以外には
C:Luke Juriga(2020ドラ外)
G:Matt Pryor(2018ドラ6),Nate Herbig(2019ドラ外),Sua Opeta(2019ドラ外)
T:Jack Driscoll(2020ドラ4),Prince Tega Wanogho(2020ドラ6),Jordan Mailata(2018ドラ7)
など。(その他にも何人かいたけれどもファイナルカットで全滅したので省略)
ちなみにスターター以外でプロの試合経験があるのはプライアーのみ。これも前述ブルックスが壊れたあとのバックアップとして出場し、プレーオフで散々な目に。
Dillardのところに不安はあれど、オフ中の「かなりバルクアップしている」という報道とか「今年のあいつは一味違う」というブルックスのコメントとか、まあそれなりに期待してもいいよね、と思っていた6月頃。悲報が舞い込む。
「Brandon Brooks、アキレス腱断裂でシーズンエンド」
これを受けてスターターは以下の通りに変更。
LT |
LG |
C |
RG |
RT |
Andre Dillard |
Isaac Seumalo |
Jason Kelce |
Matt Pryor |
Lane Johnson |
しかし、プレーオフの惨状の記憶も新しい中、これではまずいと思ったか、チームは契約延長せずにFAとして放出していたピータースを呼び戻しRGに。LTでプロボウル9回の人間にRGをさせることについて、「???」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんのでピータースという男の特異な経歴について。
大学時代にはDLとTEをプレーし、2004年にTEとしてドラ外でBUFに入団。しかしTEとしては戦力外と判断されカット。しかしサイズと運動能力があまりに惜しかったこともあり、PSに呼び戻してその冬にOTに転向、そこからたった3年でLTとしてプロボウルとオールプロ(2ndチーム)に選ばれたという異次元の才能の持ち主。2008シーズン後に契約でBUFと揉め、2009年に1巡・4巡他の指名権とトレードでPHIにやってきた男。
LTとしてのパスプロテクションがクイックネスの衰えで難しくなってきていたものの、ランブロッキングは実に優秀だったこともあり、「じゃあプロテクションの負担の小さいGならできるよね。もとからTEやったし左右の影響はあんまりないよね。」という雑な考えがあったのかどうか、RGとしての契約に。
しかしこの契約、外からは伺いようがないが、周囲は当然「DillardがバストならLTもお願いね」というニュアンスがあると推測していたところ。この点が後々ピータースの処遇に大きな影を落とすことに。
そして臨んだトレーニングキャンプ。スターターは以下の通り。
LT |
LG |
C |
RG |
RT |
Andre Dillard |
Isaac Seumalo |
Jason Kelce |
Jason Peters |
Lane Johnson |
キャンプ入りからしばらくの時点ではレーンが全くといっていいほど練習に姿を現さず、ピータースもおじさんのため適宜休養を取りながらのキャンプとなっていたため、実質的にはRG:プライアー,RT:マイラタという布陣。
その時点の地元報道では、「DL特にEDGEがめちゃくちゃいい仕上がり」。裏返すとつまり、OLがひどい。というかディラードとマイラタがひどい。とのこと。来年の1巡でLTもういっかい行くか…と暗い気持ちになっていると、さらに辛いニュースが。
「Dillard、二頭筋断裂でシーズンエンド」
はい聞き飽きた。
というわけでLT不在に。しかしここでは安心した。「ピータースと再契約しといて本当によかった。確かに全盛期とはほど遠いけど並のLTぐらいにはまだまだやってくれそう。痛いのはディラードの評価が1年遅れることぐらいかな。」と思っていた。
甘かった。そのあとの報道がいまだに全く理解できない。内実は知らされていない。それは
「ピータース、RG分の給料しかもらってないという理由でLTでのプレーを拒否」というもの。
HCピーダーソンはずっと「どこからそんな話が出てきたのかわからない。ピータースとは会話している。チーム内の話だ。」と言いながら明確な否定はせず。現地番記者も割とブチ切れ。曰く、「契約でゴネるのはわかる。けどコンバートはHC権限の話であって、チームの窮状を人質にしてコンバート自体を拒否するとは何事か」と。同意します。
そして何日間か以下の布陣でキャンプを過ごす。
LT |
LG |
C |
RG |
RT |
Matt Pryor/Jordan Mailata |
Isaac Seumalo |
Jason Kelce |
Jason Peters |
Lane Johnson |
この時が一番ひどかった。意味がわからなかったのが、「1日でLTのところから10サック献上」というニュース。相手のEDGEもPITのT.J. WattとかCLEのMyles Garrettとかそんなレベルじゃない。プロ通算4サックのJosh Sweat。そのせいで「Sweatはローレンステイラー二世か?!」みたいな意味わからん記事が出る始末。番記者ども落ち着け。
こんなゴタゴタを経て、結局リーグ最高給RTのLaneのサラリーを再構築する形でピータースがLTをプレーすることに。3M→4Mに基本給を昇給。何もしてないのに。得たものは何もない。ただただピータースが晩節を汚しただけ。のように日本からは見える。同僚からは相変わらず慕われているようでチームキャプテンにも選ばれているが。BUFからPHIに来た経緯からもお金に貪欲なタイプなのだと思い込むしかない。まさか38歳にして枯れていなかったとは。
そしてこの頃、ほとんど練習に出ていなかったLane Johnsonが足首の捻挫のため8月に手術を受けていたことが判明。「開幕間に合うかは五分五分」という報道。お先真っ暗で開幕。
【2020season開幕】
ようやく開幕。
結局レーンは間に合わず。蓋を開けてみるとPetersはゴネた挙句本当に名状しがたいほどひどい出来栄えでPHIファンの反感を買うパフォーマンス。そして以降Seumaloがweek2に、Petersがweek3に相次いでIR入り、ノーパワーながら頑張ってケガがちなレーンの穴埋めをしていたDriscollも巻き込まれ事故で負傷、一時離脱。パッチワーク化がますます進むことに。詳細割愛、以降はこんな感じ。
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LT |
LG |
C |
RG |
RT |
Week1 |
Peters |
Seumalo |
Kelce |
Herbig |
Driscoll |
Week2 |
Peters |
Seumalo |
Kelce |
Herbig |
Johnson |
Week3 |
Peters |
Herbig |
Kelce |
Pryor |
Johnson |
Week4-5 |
Mailata |
Herbig |
Kelce |
Pryor |
Johnson |
Week6 |
Mailata |
Herbig |
Kelce |
Brown |
Johnson |
Week7 |
Mailata |
Opeta |
Kelce |
Herbig |
Johnson |
当然の帰結として、week6終了時点でNFL最多の25サックを献上。
【Jordan Mailataという収穫】
こんなシーズンを過ごしているのだから収穫ぐらいあったっていい。普通のことをいうと「若手の経験」。これしかない。OLというポジションは見かけによらず繊細で、5人のチェーンとして戦力が発揮できるのだとか。その点でいうと左右にスイングされまくりのHerbigとかはなかなか良い経験が積めているのでしょう。
そして最大の収穫はMailataが使い物になる目途が立ったこと。
Jordan Mailata。my-LOT-aという発音のようなのでカタカナでいうとマイラタかマイロタが正解。2018年のドラ7。ドラフト直前までアメリカンフットボールなんてやったことがなかった元ラガーマン。
6-8(203cm)、346(160kgぐらい)のオーストラリア出身のサモア系の大男。あまりのデカさに14歳のときにはラグビーの試合時に相手チームから出生証明書の提示を求められたこともあるそうな。意外なことに両親は二人とも170cmもない小柄な人だとか。
そんな両親から生まれた大男はあまりにもデカく育ちすぎたからか、ラガーマンとして将来を嘱望されていた17歳の時に練習中に気絶。検査してみると心臓に先天性の疾患があったようで、手術ののち1年間休養。その後ドクターからは復帰の許可が出たようだが、2018年、20歳のときに渡米してIMGアカデミー(スポーツの英才教育を施す専門学校的なところ)入り。
それまではラグビーやクリケットなどしかスポーツ経験しかなく、アメリカンフットボールなんて初めて触れるのでルールも知らなければイーグルスはおろかペイトリオッツやブレイディのことも聞いたことがない。
初めてヘルメットをかぶったときには、ヘルメットを外すという概念がないため、ゲータレードのコップを渡されて、ぎこちなく笑いながらフェイスマスク越しに飲んだのだとか。すごくベタベタしそうなエピソード。だけどなんだかすごくかわいい。
NFLのインターナショナルナントカプログラムの一環でドラフト指名が可能になり、そのサイズがスカウトの目に留まったことで、2018ドラフト前にGM Rosemanから、オフのゴルフ旅行に飛び立とうとしていたOLコーチStoutlandに急遽電話が入り、「至急フロリダに飛んでMailataという男を見てきてくれ」との指令。
高校時代の友達との旅行をドタキャンさせられたことに悪態をつきながらフロリダに行ったStoutlandはハタチの大男になんと一目惚れ。とても熱心に指導をして、「こいつを育てたい」とRosemanに直訴したことからドラ7をちょっとだけトレードアップしての獲得につながったそう。
しかし2018年はケガで思うように伸びず、2019年には前述したようにディラードを指名、当のMailataもIR入り、迎えた2020年のキャンプも振るわなかったことから「このプロジェクトも失敗」とささやかれだした矢先、相次いでケガ人が出たことで出番が回ってくることに。
Week4以来LTのスターターを張り続け、なんならオフェンスのスナップ時にはほとんどMailataしか見ていないけれどもそんなにひどくはない。むしろ思ったよりやれている。ESPNのランキングによれば、OTのパスプロテクション部門で10位だとか。このランキングの怪しい点は、最多サックを献上しているはずのPHIのOLとしてのパスプロテクションランキングが30位台じゃなくてリーグ中位にランキングされているところ。だけどこういうのは好意的に解釈しておく。
技術的には、殿堂入り間違いなしのレジェンド・元CLEのJoe Thomasから
「非常に優れたテクニックを持っているというわけではないが、そもそもパスプロテクションという人間がやるにはあまりにも不自然な動きを短い期間でこれだけ習得しているのはすごい。あとはカウンタームーブなどへの対応が今後の課題ではあるが、プロボウル級になれる素質。」というまあまあの評価をいただいている状況。今後もStoutlandと二人三脚で成長していってください。
このまま順調にいった場合、来年度どうするかはまだわからないし、一部ではディラードを再度試してみるのではないかという噂もある。だけどドラ1を追い抜かす素人ドラ7、なんてドラマもロマンがあってよい。ディラードもまだ若いしトレード価値はあるでしょうから。
調べてみてとても好きになったし長く応援したい。
ちなみに歌が上手い。
.@Eagles rookie @jordan_mailata kicks off the Inaugural #LuauInOctober with his amazing off-the-field talent! @VaiSikahema @Haloti_Ngata92 pic.twitter.com/ixOhwXVPnF
— Vai Sikahema Foundation (@VaiCares) 2018年10月15日