スペシャリストは、その分野において遣われる範囲においてその実力を最大限に発揮する。しかし所詮スペシャリストである彼らの能力は「その専門内において」判断されるべきものであるし、もっと広い視野が必要とされる任務に彼らをアサインしたいならそれなりの訓練が必要だと思う。スペシャリストを否定したいものでは断じてない。得てして一つの分野に習熟した人間はちゃんとした訓練さえ受ければほかの分野でもそれなりに力を発揮することが多いとも思っていますし。
何故こんなまどろっこしくてふわふわしたイントロなのかというと、この火曜だったか、現地でPHIフロントに関する不穏な記事が出ていたのでそれについていつものような超適当な訳をお届けしたいところ、なんとなく見えてきた間違いについての、上記が個人的な所感だから。
記事について、どこまで事実かは知る由もないし、敬虔なPHIファンの皆さまからすると耐え難い部分もあると思いますし、このクソっぷりについては閲覧注意と言わせていただきたいと思います。この数日腹に収めようと努力してきたけどやっぱり無理だったので、このストレスはせっかくブログをやっているのだから書きなぐって発散しようと思った次第。
敢えてこれを書く理由は、2週間を切ったドラフトにおいて、
1-12で“Justin Fields”とか“Rashawn Slater”とか”Christian Barmore”とかいう狂ったピックを行うかもしれません、ということをご理解いただきたいという趣旨です。ちなみに上に挙げた選手に恨みがあるわけでは全くない。自分たちのことが何も見えていないと思わざるを得ない人間が取りそうな行動の比喩です。
経緯
Pederson解雇からWentzをめぐるいざこざまで、あまりにも不可思議な今オフのフロントの動きについて、“The Athletic”のPHI番記者である”Sheil Kapadia” ”Bo Wulf” ”Zach Berman”の三氏が元・現を問わず最近PHIフロントオフィスに在籍した経験のある数十名にインタビュー。
そして浮かび上がってきたオーナーと現フロント体制のクソっぷりについてまとめた、というもの。決して元職員によるリベンジに寄っているわけではないというのが彼ら記者の言い分です。
概要
以下、いちいち訳すには長すぎるのでエッセンスのみ。そして途中で気分悪くなってきたのでだいぶ端折ってますし途中適当感あってすみません。
- Lurie(オーナー)・Roseman(GM)は、試合後の毎週火曜日にHCに対して面談をする。この面談はフットボールオペレーションの”Strategy(戦略)”部門からもたらされた毎試合のレポートに依拠している。
内容としては素人2人がフットボールのスペシャリストたるHCに対して、メンツ、プレーコール、4th Downの決定などすべてに対して説明を求めるというものだとか。Pedersonは5年間毎週これを受け続けたとか。気が狂いそう。
そしてこのレポートがどれだけバカげているかの一例を以下に。
2019シーズンのWeek4、敵地GBでRodgersに対して0-10をひっくり返しての34-27での勝利後、Week8の同じく敵地BUFでの強風下での31-13での勝利のあと、これらのレポートは「パスの比率が少ない」という理由でPedersonを糾弾するものだったと。
試合見てないのか素人どもが。GBに対しては2TEでのランプレーが気持ちいいほど効いていたし、そもそもRodgersに渡す時間を減らしたいという意味であの展開は王道も王道。
BUFについても。本拠地で慣れているはずのAllenほどの強肩パサーでもパスを通せない強風下でどうやってパスオフェンスを展開していくのか。教えてほしい。あの試合もSandersは非常に効果的であった。
要はこのレポートは紙屑か子供の落書きだと理解すべきレベルのもの。
ちなみにこの面談はAndy Reid時代には行われなかったとのこと。
- 上に挙げたエピソードは「戦略部門」がいかに「伝統的なフットボールと遠いところにある戦略のスペシャリストか」という例示。
(この部門の存在を否定するつもりはない。特に2016のPederson就任以降、4th Downのギャンブル比率が増えて効果的にオフェンスを展開していったこともあったし、その根拠がフットボールとリンクしない分析によってもたらされたのであれば一定の効果はあったのでしょう。それでもその「戦略」部門がはじき出した分析結果はフットボールのスペシャリストたるHCによってはじめて適切に運用されるものだと思いますが。)
- そしてこの「戦略」部門に執心しているのがあろうことかLurie。
- こいつは1994のPHI買収時から、Sports Illustrated紙(当時・現在はNBC所属)の名物記者であるPeter Kingから、「ドラフト狂。ビバリーヒルズの自宅で大画面テレビに食い入るようにプロスペクトのフィルムチェックしとる。」という紹介をされていたほどの男。
- そのLurieはPHI買収時から一貫してこの分析に基づく「戦略」部門を定着させようと努力してきたようで、その努力を傍で見てきた将来の後継者であるJulian Lurie(オーナーのドラ息子)がLurieに推挽したのが、この記事でお初にお目にかかった、“Alec Halaby”というフットボールおよび「戦略」部門担当の副社長である。
経歴は、2009にハーバード大学を卒業。卒業前からインターンとしてフロント入り。2010からフルタイムになり、2012-15にGMの「スペシャルアシスタント」を務めたのち2016に現職に就任。ハーバードの同門であるJulian Lurieとは非常に親密で、その関係性もあってLurieからの信頼も厚いとのこと。
そしてその経歴からお気づきのように、完全にRosemanの息がかかっている。
そしてこいつもRosemanと同じくフットボールのバックグラウンドはない。
そして性格までRosemanに似ているのだとか。記事の中でそのパーソナリティは“square peg in a round hole”と表現されている。丸い穴に四角いペグを打ち込む?なんか痛そう。慣用句としては「不適任者、不適格者」とか「特にビジネスにおいてその会社の社風に合わなかったり、周囲との協力が下手だったりして、企業の前進に貢献できない人に対して用いることが多い表現」ということです。勉強になりますね。
- では顔をご覧いただきたい。そしてお察しいただきたい。
- Halabyはその「自分が正しいと信じたことを通すためには戦うことを厭わない」という性癖もあり、Pedersonとの関係は著しく悪かったそう。2017にはあの温厚そうなおじさんにして「フロントの周りの人間から聞こえるところでHalabyを思いっきり怒鳴りつけた」こともあったよう。
Pedersonからすると「フットボールも知らん若造がガタガタ言うてくんな黙っとれ」という気持ちだったのでしょう。やり方がどうかは別として心中お察し申し上げます。
- そしてこのHalaby率いる戦略部門は組織内で完全にブラックボックスなのだそう。直接の説明責任はGMたるRosemanにだけあるようだが、そのブラックボックスから、何と各地のスカウトに対して順位付けされたプロスペクトのリストとスカウティングレポートの報告依頼が来るのだそう。
なにぶん素人が机上で順位付けしたものだから現場のスカウトからすると「なんじゃこの順位は」というものだそうだが、ブラックボックスがRosemanという組織内において強力な後ろ盾を持っているものだからそれに反抗することはできない。
- ちなみに、机上の分析と戦略だけをやっていてプロスペクトのスカウティングに関する訓練を全く受けていない連中がプロスペクトの評価までして順位付けを行っていることを知り、スカウティング部門のボスで人事担当副社長のAndy Weidlは「非常にうろたえていた」とのこと。
- 2018のドラフト直前にフロントオフィスのなかで、「コーチとかスカウティングスタッフがいる“football”サイドから(物理的に)最も遠いところに新設された「最先端」のドラフトルーム」のすぐ近くにHalabyの戦略部門はいるよう。そしてPHIの、というかRosemanのドラフトボードはその部屋を中心に作られる。
- いくらLurieがドラフトに熱心だと言っても素人である。何回でも言う。RosemanもHalabyも素人である。そして厄介なことにこの素人どもには権限だけがあって自省するということがない。
プロに任せよう、ではなく、これこそが正しいやり方だ、自分たちが時代の最先端を行っている、と信じてやまない連中である。
当然何度でも同じ過ちを繰り返す。現実が見えてないのだから。見たい現実しか見ないのだから。
- Rosemanは、チップケリー就任後に蹴落とされたことがあったが、その期間に「1対1のコミュニケーション」についてすごく勉強と修練を積み、その後の権力闘争での巻き返しと今の絶対的な権力の構築につなげたのだとか。だから今も文句ありそうなやつのところには1対1で乗り込んで黙らすのだとか。PHIのGMは「コミュニケーション」のスペシャリストです。中身が薄い。
- そして組織内の各スペシャリストを統合して1+1を3にも4にもしていく力は彼にはない。一度蹴り落されたときのことが心の傷になっているから。自分を蹴落としてもう一度拾い上げてくれたLurieのことしか見ていないから。Lurieの機嫌さえ損なわなければ自分の位置が安泰だと知っているから。またあんな思いをしなくて済むと知っているから。そのためには自分と、Lurieの思い入れが強いHalabyの部門さえ守っていればいいから。
- Sirianni選考も実は「(数ある候補者の中で)フロントに対して一番何も言わなそうなやつ」という選択だったよう。
そしてそれはPedersonのときも同様だったと。
PedersonがSB制覇後3年目のシーズン中に燃え尽きたような覇気のなさだったのもこの一連を見ているとなんとなく想像がつく。
罵倒してごめんなさい。ゆっくり休んであの悪夢のような時間をどうぞ吹っ切っていただきたい。
2020シーズンの、あの投げやりにも見えたパスのコールの嵐も、メンツの選定も、4thDownやTFPの選択も、すべて納得がいった。
- 最後に。2016~18の間フロントオフィスにいたフランチャイズのレジェンドでありアイコンであるBrian Dawkinsはかつて、ドラフトルームにおいて、フロントオフィスで働く職員に向かって「仲違いよりチームワークが必要だ」と熱烈にスピーチをしたことがあるそうな。
初歩の初歩である。
フロントの職員にとってはDawkinsの放つ熱量は衝撃だったとのことだが、Dawkinsにとっても衝撃であったろう。こんなに自分のことしか考えてないやつらが存在して、そしてそいつらがこのチームの舵取りをしていることは。
世界は広がった。10年前の世界からするとその延長線上にあるものとは思えないほどである。
フットボールの戦術も多様化したし、あらゆる分析手法も発達したであろうし、選手の評価手法も、COVID-19に関連するサラリーキャップの管理もますます複雑化しているであろうことは想像に難くない。
スペシャリストの存在が絶対的に必要なのはよくわかるし想像がつく。
だからこそ、深い知識を持つそいつらを束ねる人間に必要な資質は広い視野と公平さと豊かな情緒と感性なのではないか。必要なのは決して知識ではないと思う。
なぜなら中途半端な知識ではスペシャリストに騙されて終わりだと思うから。そして耳当たりが良い言辞を並べる人間の言うことだけを聞こうとしてしまうのではなかろうか。
口が上手いスペシャリストがごった返して政治が蔓延った結果、透明性を喪ってどこに向かっているか自分たちでもわかっていない組織を見てそう思った。
以上、何とか取り繕おうと足掻いて締めます。