鷲の巣

NFL フィラデルフィア・イーグルス(Philadelphia EAGLES)の応援ブログ

Tyler Shelvinの長い道のり

今回はPHIに全く関係がない一人の選手のお話。

きっかけは、確かJaCoby Stevensの研究でした。そして、なんで2020のLSUのディフェンスはこんなにひどいのか、というところに至り、そうかBo Periniという人がいるのか、となって、そして見つけた一つの記事に心を奪われたものです。

 

 【Tyler Shelvinの物語】
始まりは2020年8月のある木曜日。Deborah Silasという一人の女性のもとにLSU Tigersの“Coach O”ことEd Orgeronから一本の電話が入る。

 

「悪い知らせがあるんだ。Tyler(Shelvin)がオプトアウトするそうだ。」

 

知らせを受けたこの女性は、Tyler青年の祖母に当たる方で、ほぼ育ての親。Coach OはTyler青年に問題が起こるたびにSilasさんに相談していたとか。

 

焦ったSilasさんが何度Tyler青年に電話をかけてもつながらない。やきもきしていた直後、Tyler青年から折り返しの電話が。
「いまコーチと話して大学に戻ることにしたよ。心配ないよ。」

 安心してSilasさんは電話を置いた。

 

しかし翌日。人種差別問題などに揺れていたLSU Tigersは練習をボイコット。ロッカールームには緊張感が漂い、選手たちも口々に、今シーズンは開催されないからドラフトの準備のために練習をやめる、というようなことを言っていたそう。

そして週が明けた月曜日。Tyler青年は一度固めた意思を翻し、オプトアウトを決断。どうも最初の決断も二度目の決断も、もはや2021ドラフトにおける地位を圧倒的なものにしていたJa‘Marr ChaseのTylerへの影響力が大きかった様子。

 

一方Coach OはなんとしてもShelvinに残ってほしかったようで、その週末にはShelvinの周囲の人々に11回もの電話をかけていたとのこと。

このCoach Oの必死さは、ひとえにTyler青年が抱えていた大きすぎるフットボールの才能と、同じぐらいの精神的な不安定さに起因する。

彼の将来がどれだけ嘱望されていたかは、高校卒業時には四つ星のルイジアナ州No.1リクルートであったことからも窺えるというもの。その時のNo.2リクルートが、われらがDeVonta Smithであることを見ても明らか。

そして選手としての能力をそれほど嘱望されていながら、一方で彼になんとかフットボールに集中してほしいと、周囲が祈るような気持ちを持たざるを得なかった不安は、地元LSU進学後、初年度である2017シーズンを学業の関係でAcademicレッドシャツとして過ごすことを余儀なくされたことで的中。続く2018シーズンも規律と体重管理の問題により、チームから出場停止を食らうありさま。
要は体重管理というか規律というか、いわゆる自己管理の懸念。

幼少期にはピザを買い過ぎないようにクレジットカードを追跡されていたという経歴を持つ男の周囲にとって、Coach Oのもとでフットボールに集中している、という状況は非常に望ましかったようで、Coach O本人もそれを望んでいたと。じゃあクレジットカード渡すなよというツッコミは心に仕舞ってください。

ようやく2019になり、一時は390lbsぐらいまで膨れ上がった体重もなんとか適正の350lbs近辺にコントロールでき、全米チャンピオンのディフェンス陣を支える存在として本来の実力を発揮。このままもう1年スターターとして体重を管理できることをNFL各チームに証明し、フィールドで実績を積めば全体50位以内、あるいは1巡での指名も十分あり得るという、そんな輝きを放った矢先のオプトアウト。

文字通り親身に支えてくれる家族の近くで、理解あるコーチがいるという望ましい環境でフットボールに集中してほしかった周囲の心中は察して余りある。

その絶望はSilasさんに特に色濃かったよう。Michigan Stateを卒業した最初のアフリカ系アメリカ人の一人であり、長年看護師を務め、ビジネスオーナーでもあったSilasさんは、要は金に困っているわけでもなく、つまりTyler青年がNFLで成功して大金を得ることを期待していたわけでもなく、ただただ彼のことを第一に考えていたと。
そしてそのSilasさんはオプトアウトを決めてから数か月、Tyler青年とは絶縁状態になったそうな。 

 

しかし、Tyler青年にとってこのオプトアウトは別の意味があったそう。

つまり、周囲に支えてもらうばかりだった自分からの脱却。
そしてまた、Covidのことも。350を超える巨漢である彼の場合、感染時のリスクは凡人のそれとは桁が異なる。愛する家族を、そのリスクから遠ざける、そういう内なる思いを抱いた男の決断。

「Chaseとお前とでは立場が全然違うだろ」という周囲の嘲笑も彼は理解していたと。自分のことを世間に対して証明しなければいけないという並々ならぬ覚悟を抱いての行動であった。

 

人知れず親元を離れてダラスに移りドラフトへの準備を始めた彼は、ひたすらトレーニングに打ち込み、栄養のことも勉強し、そして自分で料理もし、とにかく自分を律する日々だったとか。

こういう「体重管理が課題」であるという選手が通常多くの周囲からの助けを必要とすることに比べて、Tyler青年は「とにかく俺が一人でできるところを見てくれ。やり遂げて見せる。信じてくれ。」というスタンスだったそう。

そしてそんな日々を過ごし、2021年3月31日。Tylerの大本番。LSUのPro Day。
Tylerは見事に適正とされた350lbsで計量をパス。垂直跳びでも28.5”というなかなかの結果を残す。

そのフィールドには、Tylerのパフォーマンスを眩しそうに見つめ、傍らに立たせた5つ星リクルートで天才新入生であるDT Maason Smithに、Tylerの印象的なパフォーマンスのたびに話しかける恩師Coach Oの姿もあった。

 

Tylerはその後4巡122位でCINへ。

このサイズにしてプールにバックフリップで飛び込んだり、高校時代はキッカーまで務めたスーパーアスリートであるTyler Shelvin。

傍から見ると、「プロデーに適正体重で現れた」ということは何のニュースでもないかもしれない。しかし彼と彼の周囲からするとこの日こそが紆余曲折に満ちたTyler青年の成長の物語に一つのピリオドを打つものであったのでしょう。

 

フィルムが証明するように、プロでも2ギャップを喰うことは彼にとって容易なはず。
奇しくもChaseとまた同じチームになることがどう転ぶのか。興味は尽きない。

 

プロ入りしてちやほやされ、DTの層が薄かったドラフトでの4巡として名を聞かぬまま終わるのか。はたまたすべての懸念や評価を覆してVince Wilforkになるのか。
願わくば、後者へと至る長く険しい道の一歩目を踏み出したところを目撃したのだと思いたい選手ではあります。

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